荒れる秋相場入り、日本株にタイタニック・リスク
毎年、レーバーデー(労働者の日、今年は9月2日)を含む3連休が明けると、NY市場は秋相場に突入する。特に今年は、米金融政策の緩和への転換と米大統領選挙戦が同時進行するという極めてまれな市場環境となり、市場関係者は特に神経質になっている。更に8月5日に日経平均株価が突如過去最大の下げを演じたことが、いまだに不気味な事例として市場関係者の語り草になっている。「アジア先進国株」という株式カテゴリーが、新興国並みのボラティリティー(変動率)で乱高下したことは米国株にも起こりうる、との認識だ。円キャリートレードの巻き戻しの嵐に巻き込まれたヘッジファンドの間では「リメンバー・パールハーバー」と、日本人にとってはありがたくない表現が飛び交う。
しかも9月第1週には連日、重要な経済指標発表が並び、そのトリが雇用統計。まさに、8月5日に日本株ショックを引き起こした重要統計だ。
「パウエルFRB議長を信じられるか」
米連邦準備理事会(FRB)に対する疑念も高まっている。今回のインフレ発生時には一過性と読み違え、インフレ収束時点でも利下げスピード違反あるいは後手の痛恨エラーのリスクが無視できないのだ。市場の合言葉も「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」そして今回は「FRBと戦え」と先鋭化してきた。「利下げ発表初日は売りだ(Sell the first rate cut)」と意気込むファンドマネージャーのつぶやきが市場心理を映す。最大の注目点の失業率が更に悪化して、米国経済のソフトランディング(軟着陸)のメインシナリオが崩れ、顕在化する不況の可能性がFRB利下げの要因となる、とのシナリオが最も警戒されている。
このような緊迫感のなかで、米経済指標の一番バッターとなった8月のISM製造業景況感指数が47.2と、好不況の節目50を5カ月連続で下回った。既に中国経済不安でコモディティーセクターには売りが目立つなかで、ISM指数の影響も想定以上の強さでNY市場内に拡散した。売りが売りを呼ぶ波状現象は、ついに本丸ともいえるエヌビディアも直撃。1日で時価総額が41兆円失われるという、下げ幅の記録となった。
野球に例えれば、秋季リーグ第1戦一回表、いきなりの大失点だ。今後の試合展開が、点の取り合いという大乱戦になるのか、あるいはワンサイドゲームで負け試合になるのか。
夏休みのリゾートで英気を蓄えてきたトレーダーたちも、11月5日の米大統領選までの期間は「体力勝負」と覚悟を決め、早々とジムで汗を流し帰宅する人たちも少なくなかったようだ。
日本人の視点としては、今や「仕手株扱い」で、しかも外国人売買比率が高い日本株市場に、いつ攻勢をかけてくるのか、気がかりだ。おりから日本側は、次期自民党総裁選びの真っただ中。円キャリー巨額損失のリベンジ攻撃に対する耐性は弱い時期である。
今年は、これまで護送船団方式に守られてきた日本株が、構造改革を進める中で、外海の荒波にもろにさらされている。「日本株号」という船の中には、新NISA(少額投資非課税制度)初心者という新たな乗客も多い。
日銀の金融正常化の動きは「氷河並みのスピード」と欧米市場では表現され、時に、日本株はタイタニック号に例えられる。まずは、日本丸のキャプテンは誰になるのか。振り返れば「毎年、船長が代わる国」とのレッテルを貼られた時期もあった。
ウォール街で働いた親日派の日本株デスクが、今の日本を見ていると沈みゆく船内で「説明責任を果たせ」と乗客が騒いでいるがごとし、と筆者に本音を語ったとき、とっさに返す言葉がなかった。

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