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[社説]首相の迷走が影落とす理念なき税制大綱

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岸田文雄首相と政治の迷走に翻弄され、中長期で日本経済をどう支えるかの理念がみえない。14日に決定した2024年度の与党税制改正大綱のことだ。所得税の定額減税など目先の軽減策が満載だが、大幅に膨らむ歳出に対する安定財源の議論は先送りした。

混迷の象徴が、与党税制調査会の頭越しで首相が打ち出した1人当たり合計4万円の所得税・住民税減税だ。年収2000万円の所得制限を設けたが、3兆円台の減収を伴う。来年6月に実施する減税が賃金上昇による経済の好循環につながるのか。大いに疑問だ。

減税は1回限りという自民党税調の認識に公明党が難色を示し、大綱は「必要があると認めるときは、所要の家計支援の措置を検討する」と延長に含みを残した。安易な先延ばしも起きかねない。

一方で岸田内閣の支持率低下や自民党派閥の裏金疑惑なども影響し、増える支出を賄う負担増の議論は封印された。防衛費の大幅増額の見返りで27年度に1兆円を確保するための所得、法人、たばこ税の増税は25年の実施も見送り、開始時期を決められなかった。

子育て支援や社会保障の増額に対応する財源の論議も不十分だ。本来なら将来不安を和らげるため、消費税を含む抜本的な税制改革を広く長い視野で考えるべき時だが、与野党とも世論受けする目先の負担軽減ばかり競っている。

今回の税制改正では賃上げ促進税制を拡充した。積極的な賃上げをした大企業に増加分の最大25%を税額控除する。赤字の中小企業が黒字になるまで5年間は税額控除の適用を繰り越せるようにする。半導体や電気自動車(EV)など戦略分野の物資について国内生産を促す支援策も設ける。

子育て世代に的を絞った住宅ローン減税の優遇、スタートアップを活性化するストックオプション(株式購入権)行使時の税優遇を拡大する方針も盛り込んだ。

経済活性化への目配りは一定の評価ができるが、数千億円単位の減収を伴うものもある。政策減税はEBPM(証拠に基づく政策立案)の手法で効果の検証を徹底し、機動的に改廃していくべきだ。

大企業が資本金を減らし外形標準課税を逃れる節税の歯止めも設けた。適正課税の確保は重要だ。

少子化が一段と進む中で巨額の政府債務を抱える財政をどう立て直すのか。政治は本質的な議論から逃げてはならない。

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