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[社説]分断と対立の世界で国際協調導け

戦後80年 未来へつなぐ

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法の支配や他国との協調を重んじ、自由貿易体制を推進する。戦後日本が80年にわたって平和と繁栄を享受できたのは、米国が主導するこうした自由主義的な国際秩序が前提にあった。残念ながらいまの米国はこれらの理念や原則を尊重しないばかりか、ルールそのものを塗り替えようとしている。

米主導の平和の終わり

「パクス・アメリカーナ(米国主導の平和)」の終わりという秩序の転換点を迎えつつあるいま、日本は分断の世界に協調を取り戻す先頭に立つべきだ。

平和憲法で不戦の誓いを掲げた日本は西側諸国の一員として焼け跡からの復興をいち早く果たし、一時は世界第2位の経済大国となった。それを可能にしたのが日米安全保障体制にほかならない。米国の「核の傘」に守りの多くを頼る軽武装・経済重視の路線が奏功したのは評価されてよい。

冷戦終結と米国一強の時代を経て、国際環境は激変した。世界は多極化の様相をみせている。そこに再び登場したのが「米国第一」を掲げるトランプ政権である。

米国外交は一国主義と多国間協調を振り子のように揺れ動いてきた。戦間期には、ウィルソン大統領が国際連盟の設立を提唱したこともある。第1次トランプ政権後のバイデン政権は国際協調を重視する路線にいったん回帰した。

トランプ氏は同盟国を軽んじ、自由な国際秩序の維持に関心がない。それでも米国はいずれまた、世界の安定のために指導力を発揮する。こんな見方もあるだろう。しかし、そんな楽観的なシナリオに頼ってよいのだろうか。

同盟国ドイツが英国を屈服させれば、米国は戦意を喪失する。対米戦争の前、日本にはこんな甘い見立てがあった。開戦後も、中立条約を結んでいたソ連の仲介に過度な期待を寄せて米英との講和が遅れた。希望的観測に基づく外交が破局を招いた教訓は重い。

自国優先の考え方は米国でいまや共和党の主流となった。その中核をなす保護主義は民主党の多くが共有している。「内向きの米国」がしばらく続く事態を念頭に対応策を練るのが妥当だろう。

中国による一方的な現状変更の試みや事実上の軍事同盟に格上げされたロシアと北朝鮮の関係といった東アジアの緊張をみれば、一義的には日米同盟の不断の強化に取り組むのは当然だ。誰が米大統領に就こうとも、世界の安定に資する建設的な行動をとるよう促す努力を諦めてはならない。

これと並行し、米国の動きに振り回されないよう日本の自律性も高めるのが適切だ。欧州やオーストラリア、韓国といった同志国はもちろん、東南アジアなどグローバルサウスと称される新興国を含めて重層的な協力網を築くべきだ。戦略物資のサプライチェーン(供給網)や防衛産業の基盤を拡充するのはその一助になる。

トランプ氏はウクライナ戦争の停戦に向け、ロシアのプーチン大統領との直接交渉で事態の打開を探っている。欧州やウクライナは頭越しの米ロ合意を警戒する。大国主導で問題解決にあたるトランプ流の手法がまかり通れば、国連憲章が保障する小国の権利はないがしろにされかねない。

粘り強く戦後処理を

日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」は国の大きさを問わず主権を尊重し、多くの国々との協力を広げる発想がベースにある。分断と対立が目立つ国際社会を協調に導く旗印になる。日本への信頼を培ってきた政府開発援助(ODA)やポップカルチャーといったソフトパワーもさらに磨きをかけるべきだ。

折しも日米安保を重視し、大半の期間で政権与党を担ってきた自民党を軸とする国内政治は変化の兆しをみせている。そうした時代でも、外交・安保の基本政策や大きな方向性は主な政党間で共有しているのが望ましい。

東アジアは80年たったいまも先の戦争の名残が色濃い。中国とは歴史認識や安保を中心に対立が続き、北方領土問題を抱えるロシアとの平和条約の締結交渉は道半ばだ。朝鮮半島の分断は日本の植民地支配に源流がある。北朝鮮とは現在も国交がない。

いずれとの交渉も一筋縄ではいかないのは歴史が物語る。それでもこれら積み残しの懸案から目を背けず、粘り強く解決に取り組むのは日本の責任である。

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