[社説]巨大ITのAI影響力拡大を注視せよ
米巨大IT企業が生成AI(人工知能)市場で収益基盤を固めつつある。強みを持つクラウドなどをテコに業績を伸ばしている。既存のデジタル事業で高シェアを握る巨大ITがAI市場でも影響力を拡大する動きに注視が必要だ。
各社が発表した7〜9月期決算は、マイクロソフト、グーグル持ち株会社のアルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタの4社が前年同期比で2ケタの増収増益だった。「iPhone」が伸び悩み、一時的な税費用が発生したアップルは純利益を減らした。
マイクロソフト、アマゾン、アルファベットは、生成AIの開発・運用に欠かせないクラウド事業の売り上げを伸ばした。同市場における3社合計の世界シェアはおよそ3分の2だ。AIの普及が進むほど各社のクラウド事業が拡大する構図がはっきりとした。
マイクロソフトは、生成AIが文章やスライドなどの作成を支援するサービスや、プログラミングを支援するサービスでも利用者を増やした。グーグルも同様のサービスで収益化を進める。マイクロソフトなどが出資するオープンAIが対話型AI「Chat(チャット)GPT」を公開してから2年を迎えるタイミングで、生成AIの一定の収益貢献が確認できた決算だったといえる。
一方、スマホ市場が成熟化し、生成AIの導入でも出遅れたアップルの売上高は6%増にとどまった。エヌビディアにAI半導体で先行されたインテルは、四半期として2兆円を超える最終赤字を計上した。AI市場を先んじて開拓した企業が影響力をさらに強めるとみるべきだ。
デジタル技術では、利用者が増えるほど利便性が高まる「ネットワーク効果」が働きやすい。膨大なデータが集中し、それらを処理する巨大データセンター群が必要な生成AIではその傾向がより強まる懸念がある。デジタル市場で繰り返されてきた「勝者総取り」の構図にAI市場がならぬよう、各国の独占禁止法当局は今から監視の目を強めるべきだ。
6月にはクラウド大手のオラクルがオープンAIにクラウド基盤を提供すると発表した。半導体では、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)がエヌビディアに対抗する製品の投入を急ぐ。日本のテクノロジー企業もこうした動きに積極的に加わり、市場の健全な発展に貢献すべきだ。
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