レブロンとブロニー父子がNBAで描く魅惑のストーリー
スポーツライター 杉浦大介
その瞬間、2024年NBAドラフトの舞台となったニューヨークのESPNのスタジオは騒然となった。結果自体は予想されていたことではあったが、立ち会ったものの中にはやはり歴史の目撃者となったという思いがあったのである。
ドラフト2日目は現地6月27日(日本時間28日)に行われ、ロサンゼルス・レーカーズのレブロン・ジェームズの息子であるブロニー・ジェームズが2巡目全体55位でレーカーズから指名された。NBA史上初の現役選手の父子デュオ誕生が確定的になった瞬間。NBAドラフトは今年から1巡目、2巡目で2日に分けて開催されることになったが、2日目も約50人に及ぶ多くのメディア関係者が集まったのはブロニーの存在がゆえにほかならなかった。
「スポーツ界で最大の出来事はレーカーズとともに起こる。私たちはそのようにつくられているんだ。今回の物語の開始に興奮しているよ」
ドラフト終了後、記者会見を行ったレーカーズのロブ・ペリンカ・ゼネラルマネジャー(GM)はそう述べていたが、実際に39歳にして依然としてトップレベルの力を保つレブロンを抱えているチームだからこそ描ける壮大な物語である。
メジャーリーグでは1990〜91年にケン・グリフィー・シニア、ジュニアが同じシアトル・マリナーズに所属した。ともに先発出場も果たし、親子での2者連続本塁打、一緒に日米野球で来日といったストーリーを積み上げた。
レブロンはレーカーズとの来季オプションを破棄してフリーエージェント(FA)になると伝えられているが、古巣と複数年契約を結びなおすことが確実。これまで4度の優勝、4度の最優秀選手(MVP)といった数々の栄誉を積み上げてきたスーパースターにとって、グリフィー・シニア&ジュニアに続く〝親子共演〟を成し遂げることはその華やかなキャリアの最後のハイライトになるのかもしれない。
もっとも、19歳のブロニーはレーカーズの来季構想に大きな影響を与えるレベルの選手ではない。昨夏、心臓に問題が発生してしばらくブランクを余儀なくされ、南カリフォルニア大でプレーした昨シーズンは25試合で平均4.8得点、2.8リバウンド、2.1アシストという平凡な成績で終わった。
身体能力はあるものの、スキルは発展途上との声が一般的。レブロン、アンソニー・デービス、八村塁らを軸に上位進出を目指すチームにすぐに貢献できるレベルのプレーヤーではあるまい。
「ここでは正直にならなければならない。父親の存在がなければ、ジェームズはNBAの有望株とはみなされていないだろう。NBAへの準備という面では程遠い位置にいる選手だ」
ドラフト直前、スポーツサイト「The Athletic」のドラフト予想記事ではすでにレーカーズの全体55位指名が予想されていたものの、そんな辛辣と思える記述があった。実際にブロニーは複数のチームとドラフト前のワークアウトなどはこなしたものの、レーカーズからの〝縁故採用〟がなければもう1年、南カリフォルニア大に戻って経験を積むことになっていたはずだ。
近年、ヤニス・アデトクンボの兄弟がミルウォーキー・バックスに一緒に在籍したことに代表される通り、米スポーツでも〝縁故採用〟は珍しいことではない。ドラフト2巡目で、とても即戦力とはいえない選手が指名されるのもよくある話。それでもとにかく注目度が高いケースだけに、ブロニーが感じるプレッシャーは莫大なものになるのだろう。
そんな中で、メガスターの息子ながら謙虚なコメントも多いブロニーは徐々に向上していけるかどうか。父と初めて一緒にコートに立つ歴史的ゲームが終わった後も、NBAで生き残る術(すべ)を見つけられるのか。そして、レブロンは堅実なロールプレーヤーを目指す息子の成長をどんな形で助けていくのか。NBA最大の名門チームが新たに描く〝親子のロマン〟の行方に、来季以降、米国のスポーツファンの視線が集中することになる。