新NISAでなるか? 女性と投資の意識改革
知っ得・お金のトリセツ(142)
3月8日は国連が定める「国際女性デー」。日本の新NISA(少額投資非課税制度)発足に合わせたわけでもあるまいが、今年のテーマは投資だ。貯蓄に比べ〝狩猟的〟イメージが強い投資は従来、女性が消極的な分野とされてきた。
だが時は人生100年時代。お金が尽きる「資産寿命」を延ばすため、投資の補助エンジンがより必要なのは、男性に比べ生物学的寿命が平均6年も長い女性の方だ。生涯使い続けられる制度に変身したNISAは、女性に伴走し投資意識の変革をもたらすゲームチェンジャーになる可能性がある。
節約女子? 投資男子?
「男性らしい」「女性っぽい」はもはやNGワードだが、根強いイメージと結びついているのも事実。いわゆる「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」と呼ばれるものだ。社長と聞くと貫禄ある中年男性を思い浮かべがちだし、看護師はいまだに「白衣の天使」を想起させる。
お金関係では大きなお金を動かす投資が男性的イメージの一方、女性は家計簿や節約と結びつけられがち。外国為替証拠金取引(FX)に積極的な「ミセス・ワタナベ」や、株主優待を主目的とする優待投資家では女性の存在感は高いが、あくまで限定的だ。
そもそも銀行・証券といった金融業界自体がいわゆる男社会。2023年3月期の有価証券報告書から男女間賃金格差の発表が義務付けられたが、外資系コンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンの調べによると金融・不動産業の女性の平均賃金は62%と男性より約4割低く、最も男女間格差の大きい業界だ。
新NISAで変化の兆し
いわば日本全体の縮図。給与所得者全体の平均給与は男性563万円に対し、短時間労働者が多い女性は314万円(民間給与実態統計調査、2022年分)と6割にも満たない。現役時代の賃金格差は年金格差に持ち越される。かくして男性顧客をメインに相手にする男社会の業界が潮流を決める――そんな構図が続いてきた。
今年から新しくなったNISAはそこに風穴を開ける。なんと言っても非課税で運用できる期間の制限がなくなったのが大きい。女性と親和性の高いコツコツ型の資金拠出の非課税枠が拡大し、運用期間も生涯目線へと変わった。
ネット証券大手、楽天証券では新規NISA口座開設者の54.4%は女性だという。既存口座を合わせても女性比率は18年の38.8%から50.7%に増え、過半数を占めた。
長寿=長期投資家候補
同じコツコツでも貯蓄と違い投資に元本保証はないが、対象を分散し長期にわたる運用期間を確保できる場合、勝率が高まることは過去のデータが証明済みだ。
長寿の女性は長い運用期間を取って時間を味方に付けられる可能性が高まる。これまでは投下資本の額という「高さ」に目が行きがちだったが、運用期間という「長さ」に着目すれば、両者のかけ算である運用資産の面積は大きくなる。少額でもコツコツ続ければ時がお金を増やしてくれる。
人気YouTuberによる「月5万円から始める『リアルすぎる』1億円の作り方」にいくつかのパターンが例示されている。例えば30歳から月5万円ずつNISAで非課税運用開始。生涯非課税投資枠1800万円は60歳手前で埋まるので、以降は資金拠出はせず放っておく。100歳で使い切る想定にしても、5%運用を前提にすれば月19万円も取り崩し可能で総額9475万円と「限りなく1億円に近い額を新NISA口座から非課税で引き出せる」計算になる。
今後は金融ジェロントロジー(老年学)とフィンテックの進歩で「100歳運用」も可能なサービスが生まれるはずだ。100歳以上の世界となると9割を占めるのは女性。アンコンシャスバイアスはよろしくないが、自信過剰になりがちな男性より女性の方が運用成績がいいという行動経済学の知見もある。資産運用立国の立役者に女性がなる日もくる、かもしれない。
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年からマネー・エディター、23年から編集委員兼マネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
食べたものが体をつくり、使ったお金が人生をつくる――。人生100年時代にますます重要になる真剣なお金との対話。お金のことを考え続けてきたマネー・エディターが気づきの手掛かりをお届けします。
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