部屋の生活、24時間生放送するだけで月収11万円
「ニコニコ」 投稿動画に課金
17組が開始、ゲームを実況するグループも

長髪、サングラス、般若の面、フードをかぶった覆面姿。異様な4人組「M・S・S Project(MSSP)」がモニターに向かい、戦車で戦うオンラインゲームに興じる。「いま弾丸シャワー浴びてたぞ」。「いい湯だったぜ」。絶妙な掛け合いに、視聴者から画面を埋め尽くすほどの応援コメントが届く。
「プレーは下手。基本は自己満足です」(メンバーのFB777さん、29)。だが、そのはしゃぎぶりは誰かの家に集まった中学生時代の楽しさを思い出す。MSSPは「ゲーム実況」といわれる分野でトップ級の人気で、投稿動画の再生回数は累計1億回を超える。
MSSPは、ニコニコが導入した「ユーザーチャンネル」で、4万3000件もの応募の中から選ばれた。生放送や動画に月額525円といった課金設定ができる。ニコニコからCDデビューした作曲家は多いが、今回は放送そのもので「プロ」になれる道を開いた。MSSPの有料会員数は非公開だが、会員専用の生放送には延べ1万人が視聴したものもある。
アパートの一室にカメラと5本のマイク

古びたアパートの一室に、こたつでくつろぐ男性が2人。カメラと各所に固定された5本のマイク。ここに仲間と住む竹内力也さん(35)は「生主(なまぬし)パラダイム」と題したチャンネルで、室内の生活を24時間、生放送している。
食事中も就寝時もプライバシーはゼロ。外出時には誰もいない部屋が映る。住所と電話番号を公開し、事前に連絡があれば視聴者の訪問も歓迎。当初仕込み無しの生放送に不安もあったが「リスナーが事件を持ってきてくれる」(竹内さん)。
不在時にファンが部屋に入って視聴者が110番してしまったり、同居人に女性問題が発生したり……。これまでに100人以上が実際に部屋を訪れ、生放送の「共演者」となった。
視聴者からは1日5箱ほど宅配で物資が届く。卵90個にトマト80個、高級肉からワニの舌まで。「寒いね」と言えばエアコンが、ゲームの話をすればゲーム機が届く。月に2回、3時間ずつが有料会員限定の放送。会員数は約300人、ドワンゴの手数料を引いた月収は11万円ほどで、光熱費や家賃は十分に賄える。
著作権のハードルも
ハードルもある。まず著作権の制約。有名ゲームの音楽演奏でファンをつかんだサカモト教授(34)は有料会員向けではピアノの弾き方講座などからスタートした。
ドワンゴは日本音楽著作権協会(JASRAC)と包括契約を結び、ニコニコ内での楽曲演奏は自由だ。ところがゲーム音楽は契約外の曲が多く「お金を得る放送で黙認してもらうことはできない」(サカモト教授)。
ネットでお金を稼ぐことへの視聴者の反発も。サカモト教授はリスナーと相談しながら慎重に進め、課金収入は「まだお小遣い程度」という。
ファンが支えたくなるコンテンツを続けていけば、課金への抵抗感は薄れていくだろう。だが、生放送の発信者が乱立する中で、まず目立つことが難しい。そして目立つ投稿者には、厳しいコメントも多い。
MSSPが投稿した最初の動画は「面白くない」「やめろ」と罵倒の嵐だった。「それが逆に面白かった。そんなこと言っても次もアップするもんね~って」(メンバーのKIKKUN-MK-2さん、30)。このメンタルの強さが何よりも肝心だ。(石森ゆう太)
[日経MJ2014年2月14日掲載]
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