トヨタの自動運転車に乗ってみた 初心者でも首都高安心
とっさの判断、人より速く
トヨタ自動車はこのほど高度なレーン検知システムと車同士の無線通信を組み合わせた自動運転支援システムを搭載した車の公道デモンストレーションを開いた。場所は首都高速道路。新システムは渋滞や急カーブにあふれた都市の高速道路でも使えるのが特徴だが、運転が難しそうな首都高で一体何が起きるのか。記者が試乗した。
ハンドルから手を離しても…
14日から東京で開催した高度道路交通システム(ITS)の世界会議「ITS世界会議」に合わせ自動車各社による最新技術の一般公開が相次いでいる。トヨタの公道デモもその1つだ。
乗せられたのは「レクサス」を改造した試験車だ。助手席に座り、トヨタの担当者が車を運転。首都高入り口から合流帯を抜けるまでは普通のドライブだったが、そこからは驚きの連続だった。
「今から前を走る別の試験車と通信します」と担当者。モニターに目をやると二台の車が波長でつながるアニメーションが流れ、前の車との距離や速度が表示される。「今、前の車の速度情報を、無線でリアルタイムで取り込んでいます」。一体何のため?
渋滞が始まり前の車が減速すると、こちらも減速。「全く同じタイミングでこの車もブレーキを踏んでいるんです」
急カーブ・急ブレーキに即応
よく見ると担当者がハンドルから手を離している。「あれ。もしかして自動で運転してますか」。高速レーンに乗ってから、実はハンドルもブレーキもアクセルもいじっていないらしい。
そんなことにすら記者が気づかないほど自動走行はスムーズだ。「車線に沿った走行を支援するレーンキーピングは、今までは直線での高速運転が主体でした。今回は急なカーブや低速時も対応できます。そこに通信も連動させて車間距離を保っています」。カメラやセンサーによる前の車の位置の把握だけでなく、無線を介することで走行状態や車間距離を精緻に把握できるという。
なるほどと思ううちに首都高特有の急カーブ。車は適度な速度を保ちつつ左へスムーズに曲がっていった。ハンドルをみると勝手に動いている。
感心ばかりしていると今度は前の車がやや高速で下り坂に突っ込んでいく。「あの車、今から急ブレーキをかけますから」。言葉通りに前の車が急ブレーキをかけると、それにあわせて記者が乗る車も急ブレーキ。
「素早い!」。とっさの事への対応も人間の判断よりも速く車自体が処理する。事故予防はもちろん、無駄な走行もなくなり渋滞を生じにくくする効果もあるようだ。
「完全無人」は目指さず
自動車業界を担当していながら実は記者はペーパードライバー。首都高のようなごちゃごちゃした道は絶対に運転したくない。だが「これなら私でも安心して首都高を走れますね」と聞くと「合流や分岐、車線変更は自分でやらないといけませんよ」との返事。折よく後ろから救急車がやってきた。「よけますね」。担当者はハンドルを握り、車を左に寄せた。
そもそもトヨタは「完全無人」の自動運転車を目指してはいない。この日、記者会見したトヨタの吉田守孝常務役員も「熟練者並みの運転でドライバーを支援するための技術」と自動化技術を追求する意義を述べていた。ペーパードライバーでも不安無く"運転"できるというのがトヨタの技術の真骨頂なのだろう。(名古屋支社 中西豊紀)
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環境・新興国に次ぐ競争軸、グーグルもライバル
自動運転車の開発が本格化するのは、自動車メーカーにとって「環境技術」「新興国戦略」に次ぐ競争軸になるからだ。日米欧を軸に走行時の衝突軽減ブレーキ搭載を義務付ける動きが来年から加速する。自動運転では米検索最大手グーグルが公道を使った実験を進めており、自動車とIT(情報技術)の二大産業を大きく変える可能性もある。
現在の自動車業界の勝ち残りの鍵を握るのは、主要国で厳しくなる燃費規制対応と世界市場の6割を占める新興国市場の開拓だ。これに自動運転技術が加わると開発費負担は一段と重くなる。環境対応車で先行した日本勢だが、自動運転技術では米欧の大手との開発競争は横一線だ。
競争相手も変わる。グーグルは2010年から自動運転車を開発。地球12周分の30万マイル(約48万キロメートル)を自動運転で走行した実績を持つ。
「究極のエコカー」燃料電池車は1台1億円以上の製造コストが重荷で、日米欧大手の技術提携が今年に入り一気に進んだ。「究極の安全技術」自動運転でも全方位で開発できるのはトヨタ自動車など大手だけ。異業種を巻き込んだ成長産業への期待の一方、自動車業界に新たな再編を呼ぶ可能性もある。(松井健)
[日経産業新聞2013年10月13日付]