新社会人の一人暮らし 初任給から始める堅実家計
支出は収入の6割、貯蓄・自己投資に1割ずつ
社会人になって初めての給料をどう使うか。両親への贈り物など、何か買い物をしようと考える人は多いだろう。だが、一人暮らしで大事なのは生活費のやり繰りだ。将来の結婚や住宅購入、子育てを見据えれば、お金をためる習慣も身につけたい。家計管理のポイントは……。
「月給は20万円。いろいろ買い物ができそう」。4月から電機メーカーに勤めるAさんは、初めての給料で買うものをリストアップしている。父親にネクタイ、母親にはバッグ。自分にも記念の品がほしい。だが、それでいいのか。
まず心構えとして必要なのは、初任給で余裕ある一人暮らしができると思わないことだ。ファイナンシャルプランナー(FP)の藤川太さんは「想定されるボーナスを含めた年収をもとに、お金の使い方を考えよう」とアドバイスする。
平均年収は300万円
新入社員はどれくらい年収を得ているのか。国税庁の民間給与実態統計調査によると、2011年に支給された勤続1~4年の平均給与は299万円。企業によって差はあるが、約300万円というのが新社会人の平均的な年収のようだ。これを実際に使う費用と想定し配分してみよう。
図表のステップ1に示した年収の円グラフを見てほしい。収入の2割程度は税金や社会保険料として天引きされる。「残り8割のうち6割を支出、1割を貯蓄に回し、1割は自己投資などに使おう」というのが藤川さんのアドバイス。それに従えば、平均的な新社会人の場合、年間の生活支出は180万円。1カ月あたり15万円が目安となる。
この生活支出にあてる6割は、さらに「住居費」と「食費」、「水道・光熱費や携帯電話などの通信費」に均等配分する。これで毎月使える大まかな費用も分かるはずだ。
大まかな年収と支出の配分をつかんだらステップ2で支出のやりくり、つまり節約を考えよう。注意したいのは毎月必ず払う固定費だ。住居費や水道・光熱費、通信費がこれにあたる。
中でも特に支出額が大きい住居費はポイントだ。年収が300万円だとすると、その2割は60万円。これを12カ月で割ると1カ月の家賃は最高5万円。先週示した通りの結果になる。
外食に頼りがちな人は食費にも気を配りたい。食費も収入の2割だから月5万円が目安。30日で割ると1600~1700円となる。社会人になると付き合いが増えるし、休日は息抜きも必要だ。その分、普段は自炊をするなど節約が欠かせない。
カード利用控えて
注意したいのは、クレジットカードの使い方。カードで何かを買うと代金は後日、銀行口座からカード会社に払われる。つまり一時的に借金をするようなものだ。手持ちのお金がなくても買い物ができるのは便利だが、行き過ぎれば貯蓄や自己投資に回す資金を食いつぶすことになる。初めての一人暮らしでは、収入以上のお金を使わない訓練が重要。カードの利用はやり繰りできるようになるまで控えた方がよいだろう。
ステップ3は貯蓄。藤川さんが示した目安は収入の1割だが、ためられない人は多い。その場合は社内預金や財形貯蓄といった会社の制度の利用も考えよう。
社内預金は勤務先にお金を預けて積み立てる制度。金利は金融機関の定期預金(1年物で0.025%程度)に比べ有利なことが多く、給料から天引きで積み立てられる。財形貯蓄は勤務先が契約する金融機関の商品に、給料とボーナスから天引きで積み立てる。
財形貯蓄には目的を問わない「一般財形」、住宅資金向けの「財形住宅」、老後に備える「財形年金」の3種類がある。財形住宅、財形年金は一定額まで利子に税がかからないなど優遇制度がある。簡単に有利な貯蓄ができるので、制度があるなら使うことを検討しよう。
もちろん「制度がなければ、金融機関の積立預金を利用する手もある」(FPの深野康彦さん)。給料の振込口座がある金融機関で自動積立預金を申し込めば、手間なく毎月一定額を積み立てられる。
こうして一人暮らしのやりくりを考えていくと、なんだか節約ばかりの生活になると不安を感じるかもしれない。だが、そこは誰もが乗り越えなければならない自立の壁だ。その中で、自分を成長させる工夫が問われる。それがステップ4。自己投資だ。
FPの藤川さんは「節約ばかりでは人間として成長する機会を逃すので、まずは資格取得や海外体験などを勧める」と話す。つまりやり繰りでねん出したお金を、自分を成長させる原資にしようということ。やり繰りする力が、その後の自分を左右するということでもある。心して新生活に挑戦してほしい。
(横山雄太郎)
[日本経済新聞夕刊2013年2月26日付]