独、再生エネ普及策を見直し 新設発電への優遇策縮小
【ベルリン=赤川省吾】ドイツ政府は再生可能エネルギーの普及策を見直す。コストの高い発電設備が増えて電気料金が値上がりし、経済の重荷となる事態を防ぐ。メルケル首相は29日、新設する発電設備への優遇策縮小など見直しの柱について「今夏までに国会審議を終えたい」と語った。2022年の脱原発を目指して急ピッチで再生可能エネルギーの比率を引き上げるドイツの試行錯誤が続く。
昨年12月に発足した大連立政権は「脱原発」を堅持することを確認。足元で電力供給量の16%を占める原発をすべて停止する代わりに、25年までに再生可能エネルギーの比率を現在の2倍近くの40~45%に高めることを打ち出した。
ただ電気料金の高騰は防ぎたいと考えている。連邦議会(下院)で施政方針演説に臨んだメルケル首相は「(脱原発を実現したとしても)電気料金は払える金額にしないといけない」と語った。
与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)は、発電コストの高い設備の建設を減らすことで大筋合意した。新設する太陽光などからの電力買い取り価格を引き下げる方向だ。
さらに化学や鉄鋼といった電力を大量消費する企業に対しては、電気料金の軽減措置を継続することでも一致している。この方針について欧州連合(EU)は「自国産業を過度に保護している」と指摘するが、ドイツが折れる様子はない。
制度の詳細を今後詰めたうえで関連法案を4月に閣議決定。さらに議会審議を経て8月施行というのが、現時点で独政府が描くシナリオだ。
ドイツは核分裂の研究で第2次大戦前に世界最先端の水準にあった。その自負があるにもかかわらず脱原発に動いた決意は固く、それは大連立でも揺らいでいない。再生可能エネルギーの普及策を見直すのは、脱原発が理想論から「実現段階」に移行したからだ。
ドイツの平均的な家庭では、シュレーダー前政権が脱原発を決めた00年から電気料金が2倍に膨らんだ。高コストの再生可能エネルギーを闇雲に増やす時代は終わり、家計や企業の負担増を最小限に抑えながらエネルギー転換を探る局面に入ったといえる。
ただ、負担を避けるために優遇策を縮小すれば再生可能エネルギーは勢いを失う。過去に買い取り価格を段階的に引き下げた太陽光は新設が減っており、今回も一段と市場が縮小するとの見方がある。微妙なバランスが問われる新方針は「大きな挑戦」(メルケル首相)となるのは確かだ。
欧州では、スペインなどでも再生可能エネルギーの推進による「副作用」が散見される。スペインでは、再生可能エネルギーでつくられた電力を固定価格で買い取る制度ができたことで13年には風力が電力の21%を占め、石炭火力などを抑えてトップになった。ただ、政府が電力料金の引き上げを認めなかったため電力会社が経営危機に陥った。
EUは20年までにエネルギー消費のうち、再生可能エネルギーが占める割合を20%に引き上げる目標を掲げる。ただ、EU統計局によると、11年時点の加盟28カ国平均は13%にとどまる。20%という意欲的な目標到達には新たな対策が必要だ。