中国、SNSユーザー登録を実名に ネット規制強化
【北京=島田学】中国政府がインターネット規制のさらなる強化に乗り出した。ネットユーザーの個人情報保護を名目に、政府の関連部局にネットを監視する権利を与えるのが柱。習近平総書記を中心とする共産党の新指導部は、国民の間にくすぶる政府や党への不満が、ネットを通じて拡散することを懸念している。
全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は28日、「ネット情報保護強化に関する決定」を審議し、賛成多数で可決した。151票のうち反対は1票、棄権は5票だった。来年3月の全人代で正式決定する。
規定では、ウェブサイト運営者に捜査協力を義務付けたほか、広告や嫌がらせなどの迷惑な電子メールの一方的な送信に罰則を新設。交流サイト(SNS)の運用者に、ユーザーの個人情報が漏洩しないよう管理強化を求めた。
盗み取った個人情報に基づく詐欺が中国でも多発。恨みから相手の個人情報をハッキングして暴露する「人肉捜索」と呼ばれる事件なども相次いでいる。
一方で、社会秩序の維持を名目とした規制も盛り込んだ。ネットを通じた詐欺やデマの流布などを厳しく取り締まることを明記。治安管理を理由に、中国当局がネットの検閲や通信の遮断、サイトを閉鎖することを認める内容も含めた。
反発を呼んでいるのが、SNSへのユーザー登録を原則実名とした規定だ。党幹部などへの社会的監視が十分でない中国では、汚職追及や内部告発をする上でネットが最も有効な手段となっているためだ。
全人代の28日の記者会見でも、中国人記者から「(実名制にすれば)ネットを使った汚職や腐敗の追及をしにくくなるのではないか」との質問が出た。民主活動家らへの監視や言論封じ込めも狙っているとみられる。
習総書記は11月の就任後、汚職対策を新政権の重要課題の一つに掲げた。その後、ネット上では微博(ミニブログ)などを使って党幹部の汚職や腐敗を内部告発する事例が増加。慌てた中国当局は12月に入って、政府や共産党を批判するサイトの遮断を強化。現在もネット自体が閲覧しにくくなっている。
それでもネット上では隠語を使った党や指導者への批判が相次ぐ。胡錦濤国家主席は「胡蘿卜(中国語でニンジン)」、今年4月に失脚した薄熙来氏は「不厚(厚くない=薄い)」。こうした隠語は当局の検閲に引っかからないための工夫だ。
ネットの普及と軌を一にして、中国当局が「群体性事件」と呼ぶ民衆によるデモなどの数もこの10年で4倍に増加。党幹部の汚職や社会格差拡大などへの不満の解消に真摯に取り組まない限り、当局に都合の良いどんなネット規制も徒労に終わりそうだ。