アップル「壮年期」に 陰る革新性、高成長に転機
【シリコンバレー=岡田信行】米アップルの高成長路線が大きな転機を迎えた。主力のスマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)の販売は引き続き好調だが、1~3月期は利益率の低下が響き、約10年ぶりの減益となった。新製品の投入サイクルや株主対応など経営姿勢にも変化がうかがえる。アップルは「壮年期」に入った可能性がある。
単価下落が鮮明
マイクロソフトやインテルなどの米IT(情報技術)企業は、異例の高成長を達成した後で安定成長に移行した。ひたすらに利益を稼ぐ「青年期」から、収益拡大の勢いは鈍るものの経営の安定さが高まる「壮年期」へ。アップルはその曲がり角にある。
象徴的だったのがアップルが23日に発表した1~3月期決算。売上高は前年同期比で11%増だったが、純利益が18%減の95億4700万ドル(約9500億円)にとどまった。販売台数でみれば主力のスマホ「iPhone(アイフォーン)」は7%、タブレット「iPad(アイパッド)」は65%増えた。だが売上高はそれぞれ3%、40%の伸びにとどまる。単価の安い旧機種や小型版が増え、1台あたり売上高も減少した。
青年期のアップルは「高くても欲しくなる」ような革新的な製品を生み続けていた。ところが昨年9月に「iPhone5」を発売した後、アップルの勢いは鈍る。収益拡大のペースが変わるとみた投資家が離れ、株価は約4割も下落した。
巨額の株主配分
株主への利益還元にも変化がうかがえる。カリスマ的な共同創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は「(手元資金を)株主に返しても、何も生まない。アップルに投資すれば利益を増やせる」と株主配分に否定的だったが、後任のティム・クック最高経営責任者(CEO)は23日、四半期配当と自社株買いで計1000億ドル規模の株主配分を実施すると発表。「これまでの驚異的な業績に比べると(社外の)期待に応えていない」と語った。
米IT大手では、かつてマイクロソフトやインテル、シスコシステムズがOS(基本ソフト)や半導体などで一時代を築いて市場を席巻。新製品やサービスが市場に行き渡ると利益拡大の勢いが鈍り、やがて安定成長に転じた例がある。収益の拡大期には株価の上昇で株主に報い、安定成長期に入った後は、配当など直接的な株主配分に取り組んできた。
アップルの減益と株主配分をみると、同社もそうした企業の後を追っているようにみえる。
もちろん、1兆円規模で純利益を出せる巨大企業は世界でもアップルのほか、米エクソンモービルなど数社に限られる。米メディアは「アップルはスタートアップ(創業間もない会社)から、大きな企業へと変容しつつある」と伝えた。
青年から壮年への移行期なのか、再び若さを取り戻すのか。利益率を高め、収益拡大ペースを回復するには、まず「驚くような新製品」(クックCEO)が不可欠になる。腕時計型端末やインターネット接続テレビなど、各種の新製品の噂が流れるが、クックCEOは23日、一切のコメントを避けた。