韓国「安すぎる電力」を転換 需給逼迫で危機感
【ソウル=小倉健太郎】毎年、季節ごとの電力不足に悩む韓国政府が19日、電気料金を極めて低い水準に抑えてきた方針の転換を打ち出した。値上げに加えて税制も変えて、ガスなど他のエネルギーへのシフトを促す。ただ、コスト増を懸念する産業界は反発しており、本格的な方針転換には曲折も予想される。
産業通商資源省第2次官は同日の記者会見で、電気料金はガスや灯油などの価格と比べて安すぎるとの認識を表明。「持続的な調整が必要だ」との考えを示した。
韓国の電気料金は日本と同様に政府の認可制で、21日付でまず平均5.4%(産業用や住宅用などの平均値)値上げする。上げ幅は1998年以来15年ぶりの水準だ。
電力利用を分散させるため料金体系も変える。例えば時間帯別料金は、電気使用量が集中するピーク時間の単価を大幅に引き上げ、他の時間は引き下げる。
税制も変える。発電燃料の4割超を占める石炭に対し1キログラム当たり30ウォン(約2.8円)を新たに課税する一方、液化天然ガス(LNG)や灯油の税額はそれぞれ約3割減らす。冷暖房などのエネルギーを電気から他の資源にシフトさせる狙いだ。法改正を経て2014年7月以降の施行を目指す。
韓国政府はこれまでも段階的な値上げは認めてきたものの、韓国電力公社(韓電)が燃料費の上昇などを理由に値上げを求めても部分的にしか応じてこなかった。
製造業の輸出競争力を高めることなどが目的とされる。低い電気料金は政府から企業への補助金のような役割を果たしてきた。韓電は原価を回収できず、最終損益は08年以来赤字が続く。
政府の方針変更の背景には電力不足への危機感がある。経済成長に発電設備の拡充が追いつかず、電力需給はただでさえきつくなっていたところに、今年は原子力発電所のトラブルが重なった。夏季の電力不足は乗り切ったが、韓国の電力需要のピークは暖房需要が増える冬に来る。再び試練が訪れる。
中長期の電源拡充も不透明だ。韓国政府は30年の原発比率を41%と、現状の25%程度から大幅に引き上げる計画だったが、官民で構成する作業部会は10月、35年までほぼ現状通りとすることを勧告。今年末に勧告を踏まえた新たな政府方針を決める。
企業は強く反発している。用途別に見ると産業用の値上げ幅は6.4%と平均以上だ。経済団体の全国経済人連合会は同日「産業界に過度の負担を与えかねない」とする論評を発表した。電力消費の多い鉄鋼や石油化学のほか、自動車、造船などにも影響すると指摘。聯合ニュースによると、同会は製造業全体で1兆4000億ウォン(約1300億円)の減益要因になると試算している。韓国進出の日本企業にとってもコスト増要因となる。