米最高裁、献金規制に違憲判決 富裕層の政治私物化懸念も
米連邦最高裁判所が個人の政治献金の総額に上限を定めた政治資金規制法の規則を憲法違反とする判決を下した。2010年に企業や団体の献金上限を違憲としたのに続く判断。判決理由は「総額上限は表現の自由に反する」としたが、富裕層による政治の私物化につながりかねないとの批判もある。
現行制度では個人の献金総額を2年間で12万3200ドル(約1280万円)までと定めていたが、この上限は撤廃となる。候補者1人あたりへの献金を5200ドル(約54万円)までとする項目は残るが、富裕層が多くの候補者に献金をばらまけば、強い影響力を行使できるとの懸念もある。
背景には、政治献金を巡る共和党と民主党の根深い対立がある。2日の判決では、共和党政権時に任命されたロバーツ長官ら5人が上限規制を違憲とし、民主党政権任命の4人が合憲と判断。多数意見により違憲と結論づけた。
訴えたのはアラバマ州の企業経営者マッカチオン氏で、共和党の候補者への献金を増やせるよう求めていた。共和党全国委員会のプリーバス委員長は「民主主義の強化につながる」と判決を歓迎する声明を出した。
一方、オバマ政権は総額上限がなければ制度の抜け穴になるとして、政治資金規制を支持してきた。ロバーツ長官は判決の多数意見として「総額上限は民主的な手続きへの参加を著しく制限している」と指摘。米政府高官は「判決には失望した」と漏らした。
今回の判決は11月の中間選挙にも影響が及ぶ可能性がある。判決の少数意見のなかで、ブライヤー判事は「ある政党に1人が何百万ドルも献金することが可能になる」と述べたうえで「今日の決定は政治資金規制法を骨抜きにする」と厳しく批判した。
富裕層が資金力を背景に政策の誘導を図れば、金権政治の温床となるとの見方もある。2010年の企業・団体の制限緩和では、大企業などから多額の献金が選挙運動に投入されるようになった。
ロイター通信によると、富裕層は中間選挙で最大600万ドル弱(約6億円)を献金できるとの試算がある。英フィナンシャル・タイムズ紙は「少数による政治支配につながることを懸念すべきだ」として、社会の格差が拡大して二極化に拍車がかかると指摘した。
(ワシントン=川合智之)