がん研究で進む「革命」、治療に直結
米国立がんセンター元所長に聞く
遺伝子解析技術をより手軽に、かつ低コストで使えるようになり、がんの正体解明が飛躍的に進みつつある。米国立がんセンター(NCI)所長、米食品医薬品局(FDA)長官などを歴任し、現在は医薬品コンサルティングの米サマリタン・ヘルス・イニシアティブス社長を務めるアンドリュー・フォン・エッシェンバッハ氏に研究の行方と課題を聞いた。
――がん研究の現状をどう見ますか。
「大変な革命が起きていると言うべきだろう。がんの組織などを詳しく観察できるだけでなく、かつてないほど発生や転移の基本的なメカニズムへの理解が進んだ。先端的な画像診断装置やゲノム(全遺伝情報)の解析ツールが役立っている。幹細胞の研究も解明を後押しする」
「これまでは研究室で成果が生み出され、しばらくしてから臨床現場に持ち込まれていた。最近の傾向としては、研究とほぼ並行して治療に応用され、その結果がすぐに研究に生かされる。研究と臨床応用の間を行き来しながらがんの解明や治療法の開発、患者の生活の質(QOL)の向上などの取り組みが進んでいる」
――米国立衛生研究所(NIH)はどんな役割を果たしてきましたか。
「NIHは国の研究助成を配分するファンディング・エージェンシーだが、研究のポートフォリオを作成し戦略を組み立てる役割も担ってきた。1971年に施行された国家がん研究法では、NIH傘下のNCIに研究に関する大きな権限を与えた」
「政府がとりまとめるがん研究予算は議会で承認され、重点分野も定められる。その過程でNIHと関係省庁、議会との間で意見交換する。米国にはがんの研究機関が65もあるので、プロジェクトを調整して特定の方向に導く。ただ、大切なのは、政府やNIHが研究をコントロールすることはないという点だ」
――がん克服への課題は何ですか。
「財政難のなかでNIHの研究予算は削られ、新しい治療法を提供する企業などへのベンチャー投資も縮小している。加えて、がんの治療費のうち保険でカバーできる分が減っている。投資のインセンティブがさらに薄れる可能性があり、臨床応用の妨げになる」
「研究や技術が進展するなかで、政府がどのような規制を実施するのかも重要な問題だ。誤った規制はイノベーションの芽を摘む。新薬の承認を得る手続きに時間がかかりすぎ、イノベーションが妨げられることへの懸念は米国でも大きい。ただ、最近は早期承認の指定を受ける例も増え、事態は改善しつつある」
(聞き手は編集委員 安藤淳)