「黒田日銀」は量的緩和へ回帰 白川体制から転換
黒田東彦アジア開発銀行総裁ら次期日銀正副総裁の人事案が国会で同意される見通しとなった。5日終了した衆院での所信聴取では、金融政策の方針転換を目指す黒田日銀の方向性が鮮明になった。特徴は政策の誘導目標を「お金の量」とする量的緩和への回帰だ。量的緩和とは一線を画した白川方明総裁と対照的な姿勢を打ち出した。
「マネタリーベース(資金供給量)を拡大する量的緩和を進めないといけない」。副総裁候補の岩田規久男学習院大教授は5日の所信聴取で、日銀が民間金融機関に供給するお金の量である資金供給量を政策の目安に活用する考えを示した。
日銀が資金供給量を増やせば、市場は緩和が長引くと予想して予想物価上昇率が上昇し、やがては物価上昇につながるとの発想が背景にある。
一方、白川総裁は民間の資金需要がなければ、日銀が資金供給量を増やしても物価を押し上げる効果はほとんどない、との立場だ。現行の金融緩和も残存期間1~3年の国債などを買い入れることで、長めの市場金利を低く抑え、投資や消費をしやすい環境を整えるとの発想に立つ。
岩田氏の発言からは「金利重視」の白川体制から、お金の「量」を重視する金融政策への転換が読み取れる。
黒田氏も4日、「量的にも質的にもさらなる緩和が必要だ」と強調した。日銀が金融機関から買い入れる長期国債を現行の満期まで「1~3年」から5年以上に広げる手法などに言及。日銀の資金供給量を積極的に拡大していく構えだ。
日銀出身の副総裁候補の中曽宏日銀理事も「(追加緩和の)工夫の余地はある」と柔軟な姿勢を示した。
2%目標の達成時期も、黒田氏と岩田氏が相次いで「2年」に言及したことで、市場では2年での達成が事実上の「公約」となった。さらに岩田氏は2年で目標達成できなかった場合の「辞職」にも言及した。
QUICKが2月に実施した企業アンケート調査によると、3年以内に2%目標を達成できるとの解答は約3割どまり。目標達成には相当な政策努力が必要となる見通しで、岩田氏が急ピッチの緩和拡大を唱える公算も大きい。
大胆な量的緩和を唱える発言が相次いだ一方、2日間の所信聴取では、資産バブルや国債の信用低下など積極緩和がもたらす「副作用」の議論はほとんど出なかった。