追加緩和、前倒し決断も 黒田氏が臨時会合を示唆
日銀総裁候補の黒田東彦アジア開発銀行総裁は11日、参院の所信聴取に応じ、日銀総裁に就任すれば、早期に追加緩和に踏み切る考えを強調した。4月3、4日の新体制初の金融政策決定会合を待たずに、3月20日の就任後に速やかに臨時会合を開いて緩和策を打ち出す可能性を示唆した。「黒田日銀」の緩和手段に加え、緩和策を決断する時期も焦点となる。
黒田氏は国会の同意を経て、20日に日銀総裁に就任する方向。副総裁は岩田規久男・学習院大教授と中曽宏・日銀理事が就く見通しだ。新体制下で初めての金融政策決定会合は4月3日、4日の予定になっている。4月末に開く会合で今後2年間の経済物価見通しを点検する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」をとりまとめる。
19日に辞職する白川方明総裁の下では、展望リポートをまとめたり、中間点検したりする年4回の決定会合に合わせて、金融緩和策を打ち出す例が多かった。日銀が描くデフレ脱却シナリオの実現が遅れていると展望リポートで認めたうえで、追加緩和策を講じる。こうすれば金融緩和の根拠を市場に説明しやすい。
ただ、黒田氏や岩田氏は「市場の期待への働き掛け」を重視した金融政策運営を掲げている。黒田氏は11日の参院での所信聴取で「金利の引き下げ余地が乏しい現状では、金融政策の運営で市場の期待に働き掛けることが不可欠だ」と訴えた。
市場の期待を上回る中身の金融緩和策を打ち出せれば、市場関係者の予想する物価上昇率は高まり、緩和効果が増す。実際の物価上昇にもつながりやすいとの認識が両氏の発想の背景にある。
4、5日に開いた衆院の所信聴取などで、黒田氏や岩田氏は具体的な緩和手法にも言及した。金融機関から買い入れる長期国債について満期までの残る期間が「1~3年」から5年以上に広げる案、長期国債やリスク資産の購入増額を挙げた。
こうした発言を受け、市場はすでに新体制の追加緩和を織り込みつつある。黒田氏が就任後に日銀の「レジームチェンジ(体制転換)」を市場に印象づけるためには、緩和策の中身だけでなく、緩和策を打ち出す時期でサプライズを演出できるかも焦点となりそうだ。
課題もある。市場の期待に働き掛けていく金融政策運営は「市場に振り回されるリスクも伴う」(日銀幹部)。日銀の政策に注目する債券投資家は、債券価格の上昇(金利低下)でこれ以上の収益機会は乏しく、日銀に過激な金融緩和を求めがち。外国為替市場でも投機筋が、変動幅の大きい相場展開を狙っている。
金融政策に短期的な成果を求める傾向が強まるなかで「黒田日銀」は船出早々に市場との対話能力を問われそうだ。