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iPhoneやiPadと一体感 新MacOSが示す新次元

ジャーナリスト 石川 温

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米アップルは2月16日、今夏に製品化を予定するMac用次世代基本ソフト(OS)「OS X Mountainlion(マウンテンライオン)」の機能を発表した。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)のiPhoneやタブレットのiPadと、コンテンツから操作性までを一体化させて、これまで唱えてきた「デジタルハブ構想」を具体化させている。

垂直統合型の強みを生かした「世界観」

アップルが現行OSの「OS X Lion(ライオン)」を発売したのは2011年7月のこと。わずか半年強で次世代版を公開し、1年後には製品化する。米マイクロソフトの新OS「Windows 8」の製品化が年内と噂されているが、アップルはまたもマイクロソフトに一歩先行して新OSを投入することになる。

「iPhone、iPadと世界観が融合した」――。筆者が感じたマウンテンライオンの第一印象だ。それほどiPhoneやiPad向けOSの「iOS」との親和性が高く、iOSが採用した機能の数々が、Mac用OSの「OS X」に吸収されたというイメージを持った。OSと各種デバイスを垂直統合で提供するアップルの強みを打ち出してきた。

最もわかりやすい例が、端末同士でテキストメッセージをやり取りできる「iMessage」だ。これまではiPhoneやiPadと、Macとの間はビデオチャットサービスの「FaceTime」を利用できていた。iMessageの機能が追加されたことにより、まずiMessageでテキストや画像、動画を送り、込み入った話などがあればFaceTimeを起動してビデオチャットで話すという使い分けができる。

FaceTimeだけでは、いきなりビデオチャットが始まるため、ユーザーにとって心理的なハードルが高かった。マウンテンライオンではiMessageで相手の様子や状況をうかがってからFaceTimeで話すという手順を踏むため、使い勝手がよくなる。iMessageは1億ユーザーを抱え260億通ものメッセージがやり取りされている。マウンテンライオンの展開により、利用シーンはさらに広がるだろう。

iOSで提供されている「ノート」や「リマインダー」といった機能もマウンテンライオンで使えるようになった。iPhoneやiPadなどでしか記録できなかったノートやリマインダーが、Macからも簡単に書き込めるようになったのだ。

ノートやリマインダーで書かれた情報は、ユーザーが意識しなくてもクラウドサービスの「iCloud」を経由してiOS端末に同期される。画面が大きなMacでは、メールをチェックしながら仕事の用件をノートに記載し、締め切りをリマインダーに登録しておくといった操作をしやすい。これまで、「iPhoneでノートやリマインダーを使っていない」という人でも、Macから記録できるようになったことで、活用の機会が増えるかもしれない。

iOSの「通知センター」もマウンテンライオンに取り込まれた。端末を操作中にスケジュールやメッセージ、メールなどの通知を画面に表示して、用件を教えてくれる機能だ。

 マウンテンライオンでは、iMessageの着信やメール、スケジュールなどの通知がお知らせとしてMacの画面右上に5秒間表示され、放っておくとすぐに消える。気になる通知があったときには、該当するアプリを起動させればよい。仕事やウェブブラウジングに没頭していても邪魔にはならず、それでいてしっかり通知してくれるという、配慮が行き届いた機能になっている。

またMacの操作デバイス「トラックパッド」で指2本を左にスワイプ(触れた状態で指を滑らせる)させて、通知の一覧を表示することも可能だ。このあたりの操作や表示の演出は、iPhoneやiPadに近いものとなっている。

他人とコンテンツを「共有」しやすいOS

マウンテンライオンでは、いたるところに「Share Sheets」と呼ぶ、コンテンツ共有を簡単にするボタンが配置されている。写真、ウェブ、ノート、動画などを閲覧している際に、このボタンを操作することで簡単にメールやiMessageなどで友達に見せることができるのだ。

Share Sheetsはミニブログの「ツイッター」とも連携する。事前にログインしておけば、ツイッターで簡単に写真や動画などを共有できる。アップルがiOSで連携を強化したとたん、ツイッターのアクセス数が急増したといわれている。マウンテンライオンによりMacからの連携が図られたことで、ツイッターの利用がさらに活性化されそうだ。

さらにマウンテンライオンには、Macの画面に表示した内容をそのままテレビに出力する「AirPlay Mirroring」という機能も加わった。これはMacの画面上に表示された内容を、同じWi-Fiネットワークでつながっている「Apple TV」経由でテレビに送る機能で、iPadなどでは実装されている。これからはMacで動作するゲームや映画などの動画も,テレビ画面を通じて複数人で見ることができる。

1月の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の会場内では「スマートテレビ」が話題となっていた。アップルはマウンテンライオンに搭載した機能で、他社よりも早くテレビとMacの融合を打ち出そうとしているのかもしれない。

iOSの操作性をMacでも実現

アップルがiPhoneを発売した07年以降、「iPhoneが初めて触ったアップル製品」というユーザーが増えている。iPhoneに親しみを感じ、「コンピューターを購入する際にMacを選んだ」というユーザーも少なくない。このためアップルは、iPhoneやiPadの操作性をMacでも実現することに注力しているようだ。

iPhone、iPadは、アップルがアプリケーションの品質や流通を管理しているため、マルウエアやウィルスといったセキュリティーにかかわる問題はあまり聞こえてこない。こうした点からも"初心者に安心して使えるスマートフォン"として支持されている。

 この安心して使える環境をマウンテンライオンでも継承しようとしているのが「GateKeeper」と呼ぶ仕組みだ。アップルはこの仕組みの下で、アプリのインストールに3つの段階を設けるという。具体的には以下の環境だ。

(1)Mac App Storeでアップルやユーザーがレビューした安全とされるアプリしかダウンロードしない

(2)Mac App StoreとアップルにID登録した開発者が作ったアプリしかダウンロードしない

(3)ユーザーがなんでも自由にダウンロードできる

危険なアプリにできるだけ触れたくない初心者は、(1)を使う。上級者でマルウエア対策の知識を持っていれば(3)を選び、どこからでもアプリをダウンロードすればいい。(2)でID制度によって信頼できる開発者からのソフトだけをダウンロードすることも可能だ。

コンピューターに初めて触れるユーザーも安心して使えるように、アプリの配布方法にも工夫を凝らし始めたのだ。

次の一手は「テレビ」の取り込みか

マウンテンライオンへの進化は、MacからiPhoneとiPadとの連携をいっそうスムーズにしたが、そこに欠かせないのがiCloudの存在だ。自分が所有するすべてのiPhone、iPad、Macからリマインダー、ノート、通知センターのコンテンツを共有できるようになったのは、iCloudによってひも付けられている点が大きい。文書や表計算、プレゼン資料なども、これまではiPhoneとiPad間で共有できただけだが、マウンテンライオンからはMacからも共有可能になった。

昨年亡くなったアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、デジタルハブ構想として生活の中心にMacがあり、音楽プレーヤーやデジタルカメラがケーブルでMacとつながる世界観を、10年近く前に描いていた。しかし11年にiCloudをプレゼンテーションしたときには、これからの時代はiCloudを中心にしてiPhoneやiPad、さらにはMacが連携すると説いた。すでにiCloudには1億以上のユーザーがおり、ジョブズ氏が目指す世界は着実に広がりを見せている。マウンテンライオンへのアップデートで、Macのコンテンツとアプリ、さらには操作性までが、iPhoneやiPadに近づいて一体化してきたようだ。

マイクロソフトもOSをWindows 8にアップデートすることで、タッチパネルに合ったユーザーインターフェースへと改良し、さらにスマートフォンやタブレットが採用するARM系のチップセットでも稼働するように進化させている。まさにPCとスマートフォンとタブレットを一体的な世界観にまとめようとしているのだ。

その点、アップルはいち早くMacとiPhone、iPadの世界観を横串に刺して統一感を出してきた。そしてこの先あるのはテレビといわれている。マウンテンライオンで築いた世界観にアップルがどうやってテレビを取り込もうとしていくのか。次の戦略が楽しみだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「スティーブ・ジョブズ 奇跡のスマホ戦略」(エンターブレイン)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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