中国スマホゲーム、5億ユーザー巡り大争奪戦へ
ジャーナリスト 新 清士
独占企業なく300社以上がひしめく
中国のゲーム市場はこれまでパソコン向けオンラインゲームを中心に拡大してきた。中でも全土に12万軒存在するインターネットカフェ向けに配信されるオンラインゲームが市場のけん引役だった。
調査会社エンフォデスクによると、中国のパソコン向けオンラインゲームの市場規模は2012年7~12月は291億元(約4656億円、1元=16円で計算)、13年1~6月は334億元(約5344億円)。停滞が目立つ日本や欧米のゲーム市場と対照的に順調に成長を続けており、市場規模は1兆円の大台も視野に入ってきた。企業別シェアは最大手のテンセントが57%を占め、2位のネットイースは13%、3位以下はいずれも10%以下と他社を圧倒している。
ところが、スマホゲーム市場は状況がまるで違う。市場規模は12年7~12月が30億元(480億円)、13年1~6月が50億元(800億円)とパソコン向けゲームに比べ金額はまだまだ小さいが、成長ペースは速い。エンフォデスクが11月11日に発表した13年7~9月のデータを見ると、シェア1位はテンセントで15.5%。2位のロコジョイは6.1%、3位のプレイクラブは4.6%と続く。
テンセントは自社のパソコンゲームユーザーをスマホゲームにも取り込もうとしているが、大きなシェアを確保できていない。シェア1%以下の企業が全体の46.2%を占めるなど、市場には約300社がひしめいている。パソコンゲームにおけるテンセントのように市場を独占する企業がないため、ゲーム関係者にとってスマホゲーム市場は魅力的に映り、参入企業が相次いでいるのだ。
低価格スマホの登場で普及加速
スマホゲーム市場が活況な背景には、スマホの低価格化が進んで普及が加速していることがある。調査会社IDCによると、中国のスマホ出荷台数は13年に3億6000万台に達する見込み。14年にはさらに25%増の4億5000万台に拡大すると予測している。既存ユーザーを含めるとスマホ利用者数が5億を超えるのは時間の問題だろう。
特に1000~2000元(1万6000~3万2000円)という低価格スマホの登場で、中・低所得層にも一気に広がり始めている。端末の製造コストが下がり、性能は1~2年前に日本で販売されていたスマホとあまり変わらない。スマホユーザーの増加に伴い、スマホゲームの利用者も増えているのだ。
アップルのスマホ「iPhone」向けコンテンツ配信サービス「アップストア」と同じような仕組みのサービスを、アンドロイド搭載スマホの場合は各企業が自由に構築できる。中国のスマホ市場は90%以上がアンドロイド端末が占めており、こうしたコンテンツ配信サービスを独自に構築しようとするネット関連企業も相次いでいる。
ゲームはスマホのユーザーを広げるための中心的なコンテンツの一つだ。配信サービス上で様々なゲームを取り扱うことでユーザーを増やすと同時に、ゲーム中にユーザーに課金した際に一定の手数料を得るなど、各社とも配信サービスを通じて高収益を確保できる仕組みづくりを狙っているのだ。
日本では家庭用ゲーム機並みに臨場感のある映像のスマホゲームがはやりつつある。これに対し、中国で人気が高いのはもう少し容量の小さなミニゲーム的なものだ。中国では携帯電話ユーザーの過半数が月に10メガバイトまでの従量制の2G回線や、300メガバイトまでの従量制の3G回線など、低速のネットサービスを利用しているためだ。筆者が最近会ったある中国ゲーム会社の役員も「今は3D映像を使ったリッチなゲームではなく、2D映像で軽く遊べるゲームが求められている」と話していた。
有名なゲームを無断で使用
現地では有力なスマホ関連企業も続々と育っている。「中国のアップル」と呼ばれ、脚光を浴びているスマホメーカーの北京小米科技(シャオミ)もその一つ。創業からわずか3年で中国市場におけるスマホシェアで7%を獲得している。
同社は今年4月に開いた新製品発表の記者会見の中で、自社スマホ向けの「ゲームセンター(遊戯中心)」というアプリ配信サービスを発表した。サービス開始の特典として、中国で人気のある米ポップキャップゲームズのパズルゲーム「ビジュエルド」の特別版をリリース。成長企業としての実力を示した。
しかし、日本企業など海外勢にとってのビジネスパートナーという視点でシャオミをみると、まだまだ問題点がある。同社のゲームセンターを紹介するウェブサイトのスクリーンショットでは、1人用ゲームとして任天堂の「スーパーマリオブラザーズ」が紹介されている。これは任天堂と正式契約せず、勝手に利用しているとみられる。今後成長が期待されている有力企業とはいえ、果たしてきちんとしたビジネス相手になりうるのか、疑問に感じてしまう。
アンドロイド端末は普及台数は多いものの、同端末向けゲームは1人当たりの支払金額が小さく、お金を全く支払わないで遊ぶユーザーが圧倒的に多いとされる。しかもアプリ化されたゲームには違法コピーが非常に多く、ビジネスとして成立しにくい面もある。このため、中国への進出を検討しながら二の足を踏む海外企業は多いようだ。
一方、海外企業が中国に進出してビジネスが成立しやすいと考えられているのが、アップルが直接管理するアップストア関連だ。
アップストアで成功する日本勢も
中国スマホ市場におけるiPhoneのシェアは5%程度にすぎない。今年9月に発売された「iPhone5c」の価格は4488元(約7万1800円)と極めて割高で、富裕層以外は購入が難しい状況だ。それでも現地でアップルのブランド力は強く、中古で海外から流入する旧型機種も人気を集めている。
iPhoneは主に高所得層が使っていることもあり、アンドロイド端末に比べてユーザー1人当たりがゲームに支払う金額は高い。自宅にブロードバンド回線を所有し、Wi-Fi環境で遊んでいるユーザーも多いとみられ、データ容量が大きく映像が本格的なゲームも人気がある。
調査会社ディスティモが11月に明らかにした調査では、中国でアップストアの売上高は9月単月でiPhoneとiPadのアプリを合計すると約50億円。これは日本の約4分の1に相当する。米国、日本、韓国に続き世界第4位の規模だ。
中国のアップストアで成功する日本企業のゲームも出ている。中国のオンラインゲーム会社である盛大遊戯(シャンダゲームズ、上海市)と提携してロール・プレーイング・ゲーム(RPG)「拡散性ミリオンアーサー」展開するスクウェア・エニックスがその一つだ。7月に中国語版をリリース後、日本のゲームとして初めてアップストアの売り上げランキングで2位につけた。現在も20位前後を維持するなど人気は安定している。
これは、日本で連載していた漫画を中国側が中心になってゲームの展開に合わせて中国語化し、ネット上で積極的に配信したり、ブログなどを通じて口コミを活用したりといった独自の広告キャンペーンの成功が大きかったようだ。
今月2日にはセガが、同じくシャンダゲームズと組み、人気のあるRPG「チェインクロニクル」を中国で展開する契約を締結したと発表している。
影落とす違法コピー問題
DeNA(ディー・エヌ・エー)は09年に中国に進出し、20タイトル以上のソーシャルゲームを展開したものの成果が出ず、苦戦していた。しかし、自社開発したバスケットボールを題材にしたカードバトルゲーム「NBAドリームチーム」が現地でヒット。同社のゲームでは初めてランキング10位以内に食い込んだ。
ただ、アップストアにおいても中国特有の難しさはある。深刻なのが、やはり違法コピー問題だ。特にキャラクターコンテンツのコピーが横行している。中国のアップストアでゲーム売り上げランキングの50位以内に、日本の漫画キャラクター「NARUTO-ナルト-」ものだけで3本も入っている。「ワンピース」のゲームもランクインしている。いずれも使用許諾はとっていないとみられる。
日本で大ヒットしている「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)の場合、中国ではiPhone版とアンドロイド版を合わせると、少なくとも10種類以上のコピーゲームが出回っている。ゲームシステムやインターフェースの模倣自体は日本でも違法ではないが、海外でヒットしたゲームが登場すると、あっという間にまねされてしまうのだ。
こうした悩みと別次元にあるのが、世界中で大ヒットしているゲームだ。フィンランドのスーパーセルのストラテジーゲーム「クラッシュ・オブ・クラン」や、英キングドットコムのパズルゲーム「キャンディ・クラッシュ・サーガ」は、中国企業の直接的なパートナーがなくてもトップセールスで50位以内を維持し続けている。
これはゲームの品質だけではないと考えられる。欧米企業のスマホゲームは、ユーザーにどうすれば継続的に面白いと感じてもらえるかを分析し、ゲームバランスを調整したり、盛り上げたりする運用力が優れている。スマホが先に普及した分、中国企業より一日の長があり、容易にまねることができないようだ。
日本のゲーム会社の中国進出は、過去10年ほどの間に数々の失敗事例があり、その難しさは何度も言われてきた。しかし、市場形成期であるスマホゲームに関しては、日本のゲーム会社が食い込める可能性は十分あると筆者はみている。
混沌状態の今こそ進出の好機
日本のゲーム会社が認識しておくべき点がいくつかある。まず、中国では日本の漫画やアニメなど日本のテイストを生かしたコンテンツは受け入れられる余地が大きいこと。そして収益を上げるためには、富裕層が所有するスマホをターゲットにすることが現時点では最適な戦略ということだ。
中国市場での事業展開の難しさが今後も変化するとは考えにくい。ただ、現地のスマホゲーム市場は今後猛烈な勢いで成長していくとみられるほか、日本企業の成功事例も出てきた。パソコンゲーム市場におけるテンセントのような強力な中国企業が育っておらず、市場が混沌としている今こそ、日本企業にとっては進出する好機ともいえる。
スーパーセルやキングドットコムのように、ゲームの品質や運用力でユーザーをつかむ強力な作品を投入できるか。それとも中国企業と組んで日本でヒットしたコンテンツを生かす方法を探るか。選択肢はいろいろある。過去の失敗例から学べることも多いはずだ。中国で今まさに日本のゲーム各社の底力と戦略が試されようとしている。
1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」 (アゴラ出版局)がある 。
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