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世界3位の地熱資源大国 「温泉発電」で脱・宝の持ち腐れ

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資源量では世界で第3位と豊富であるにもかかわらず、活用がまだあまり進んでいない再生可能エネルギーが日本にある。「地熱」だ。

2012年7月に導入された固定価格買取制度(FIT)によって、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電設備は急速に増加している。とりわけ、買取価格が高く設定された太陽光発電の伸びが著しい。米IHS iSuppliの調査によれば、システムの費用が高価なこともあり、太陽光発電では日本の市場規模が今年(2013年)、中国やドイツを上回り世界最大になるという。

一方、地熱発電は、FITの恩恵を十分に享受するまでには至っていない。大規模な太陽光発電所、いわゆる「メガソーラー」の建設が各地でブームとなっている感があるが、地熱はそうしたブームからは程遠い。発電した電力の買取価格は1kWh当たり42円(出力1万5000kW未満の場合)と、太陽光と比べても遜色ないが、なぜこのような違いが生じてしまったのだろうか 。

国際的にも立ち遅れた地熱の活用

環太平洋火山帯に位置する日本は、発電ポテンシャル(能力)が2300万kW以上と、米国、インドネシアに次ぐ膨大な地熱資源量を誇る。ところが、地熱発電所として有望な地域が国立公園などの中にあることによる規制や、付近の温泉地で温泉が枯渇するのではといった懸念や反対運動など様々な課題があった。政府が昨年(2012年)のFIT開始までほとんど地熱発電の普及促進施策を行なってこなかったことも影響を及ぼしている。

電力事業者が設置した地熱発電所では、1999年に東京電力が八丈島に建設した八丈島地熱発電所(出力3300kW)を最後に10年以上新設されていない。世界8位の発電量といっても、国内電力需要のわずか0.3%を占めるにとどまる。地熱資源の開発や活用において、アイスランドやメキシコ、フィリピンといった発電ポテンシャルがはるかに低い国々よりも立ち遅れているのが、我が国の地熱発電の現状である(図1)。

とはいえ、日本でもこうした状況を打開し、地熱エネルギーを活用しようという動きが出てきている。国内で稼働中の主要な地熱発電所は現在17カ所あり、東北と九州に大半が存在する。例えば、九州電力は滝上発電所や八丁原(はっちょうばる)発電所など6カ所の地熱発電所を運転中である。八丁原発電所には出力5万5000kWのタービンが2基あり、合計11万kWは地熱発電所として日本で最大の規模である(図2)。

このおかげもあり、九州電力管内で主要な地熱発電所の多くが存在する大分県は、千葉大学倉阪研究室とNPO(特定非営利活動法人)の環境エネルギー政策研究所が公開した、再生可能エネルギー自給率のランキングで23.4%と全国トップだ。

電力だけでなく地熱の直接利用としては、入浴用の温泉以外に冬季の暖房や「地獄蒸し」と言われる地熱調理などが知られている(図3)。太陽光エネルギーで発電と太陽熱という二通りの利用が可能なように、地熱でも発電と熱の直接利用が可能であり、うまく活用できれば省エネルギーの効果は少なくない。

既存の源泉活用できるバイナリー発電

別府や湯布院といった有数の温泉リゾートを抱える大分県では、既に温泉として活用されている源泉を活用した地熱バイナリーサイクル発電、俗称「温泉発電」を普及させようという気運が盛り上がって来ている。

バイナリーサイクル発電は、ペンタンや代替フロンなど水より低沸点の熱媒体を温泉の熱湯や水蒸気で気化させタービンを回す発電技術である。従来の地熱発電では熱を取り出す源泉の調査や掘削などで投資額がかさむことも問題だった。

バイナリーによる温泉発電では新しい源泉の調査や掘削が不要で、既存の源泉をそのまま活用できるため、比較的低コストかつ短期間で運転を開始できる。また、既にある源泉の湧出量には何も影響を与えないのも大きなメリットである。現在、源泉の温度が高すぎて入浴用に水で温度を下げているような温泉地では、捨てている熱エネルギーを電気に換えて収益化できる理想的な技術と言える。

地熱バイナリーサイクル発電の契機となったのは、別府市の瀬戸内自然エナジーによる温泉発電(出力60kW)である(図4)。同社は経済産業省の固定価格買取制度における商用地熱発電事業としては日本で最初の認定事例となった。

今年2月に発電施設の設置を完了し、営業運転を行っている。この5月には安倍首相が別府市を来訪・視察し、ボイラー・タービン主任技術者の常駐が必要という現在の規制を、小規模な温泉発電施設などでは緩和する意向を表明した。

FIT以外の普及支援策が必要

こういった一連の動きは、比較的小規模な温泉発電の普及においては、もちろんプラスとなる。ただ、既に「バブル」という表現まで聞かれるようになった太陽光発電と比べると、温泉発電は馴染みが薄いだけでなく、普及に向けてのハードルはまだ高い。

まず、技術的な課題がある。従来の地熱発電に比べれば低温な源泉で可能とはいえ、現在の技術や設備では「湯温が摂氏100度以上、湧出量が毎分 1000リットルなければ温泉発電は難しい」(瀬戸内自然エナジー社長の森川勇氏)という。

これについては、より低温で少ない湯量でも発電が可能な高効率バイナリーサイクル発電技術の開発が期待される。現在、バイナリーサイクル発電機ではイスラエルのOrmatが高い市場シェアを持つが、出力が数百kW級と中規模以上で、小規模な温泉発電には不向きである。国内の重電・電機各社、大学などによる技術開発を加速させる施策などが望ましい。

また、温泉発電に参入する事業者向けの支援策、特に発電施設を設置するための事業資金の投融資などが活発に行われるような仕組みが必要である。小規模で低コストと言っても50kWの発電所を1カ所稼働するには最低でも億単位の資金が必要になる。実際、大分県内の別の地域でも温泉発電の導入を計画していた事業者があったが、資金の手当ができずに導入を見送ったという経緯がある。

太陽光発電の分野では、FITが制度化されるまで全く導入されることの無かった数十メガワット級のメガソーラー建設がプロジェクトファイナンスの手法を活用することで、全国各地で活発化している。数十~数百kWクラスの温泉発電なら、ずっと小規模な投資額で済む。

出力が小さい分、リターンも少額になるが、天候に左右されない地熱発電では太陽光や風力より安定した売電収入を期待できる。世界で第3位のポテンシャルを持つ日本が、地熱エネルギーをもっと活用しない手はない。温泉発電は日本が地熱大国を目指す第一歩として最適だろう。

(テクノアソシエーツ 大場淳一)

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