五輪再来、生まれ変わる東京
五輪の再来は成熟した大都市、東京が大きく変わる契機になりそうだ。現在の東京や日本を支える主な都市インフラは1964年の五輪にあわせて整備されたものが少なくない。
国立競技場などのスポーツ施設はもちろん、高度経済成長にともなう人口膨張やモータリゼーションに対応するために首都高速道路や多くの幹線道路が造られた。羽田空港と都心を結ぶモノレール、新幹線なども当時の開業だ。
■課題一掃の起爆剤に
そうしたもろもろのインフラは半世紀を経て老朽化し、グローバル化した現代社会にそぐわない面も目立ってきた。首都高はあちこちが傷み、維持管理や更新が喫緊の課題。羽田や成田は国際空港として手狭になり、アジアの中でも存在感が低下している。
都心部の交通渋滞を緩和するための環状道路の整備も世界の主要都市に比べて大幅に遅れている。ロンドン、北京、ソウルなどが100%の整備率なのに対し、東京は約60%(2012年度)と見劣りする。
首都高速中央環状線、東京外郭環状道路(外環道)、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)のいわゆる3環状道路は20年までに9割程度が完成させるのが都の目標だ。これまでは延び延びになってきた。
「五輪は様々な課題を一掃するチャンス」と都市政策が専門の市川宏雄・明治大学教授は指摘する。
世界中からヒト、モノ、カネが集まる祭典は都市のさらなる国際化を促す。計画が遅れがちだった環状道路の整備も五輪開催という期限の切られた「国際公約」を後ろ盾に着実に進む。羽田と成田の両空港間のアクセス改善も図られるだろう。都市整備に予算が優先的に配分され、政策が加速する。
六本木ヒルズなどを運営する森ビルの辻慎吾社長は「政官民が一体となり、都市再生を加速させる絶好の機会」とみる。
ハードばかりではない。都市を活性化する大胆な規制緩和などが期待される。東京都が外国企業の誘致を目指す国際戦略総合特区(アジアヘッドクオーター特区)は霞が関の抵抗で規制緩和が進まず、なかなか成果があがらない。そんなうらみ節が関係者からは漏れる。5年で500社誘致との目標は早くも危ぶまれているが、その風向きは一変するかもしれない。
法人実効税率の引き下げ、地下鉄の一元化など猪瀬直樹知事がぶち上げながら関係省庁が首を縦に振らない政策の数々も一気に動き出す可能性がある。
■臨海開発に再び脚光
1990年代、当時の青島幸男都知事が世界都市博を中止したことなどで停滞した臨海副都心の開発も改めてクローズアップされる。選手村のほか様々な競技場が晴海やお台場などで相次ぎお目見えする。
2016~19年に有明アリーナ(バレーボール)、夢の島ユース・プラザ・アリーナ(バドミントン/バスケットボール)、江東区のオリンピックアクアティックスセンター(水泳)、17~19年に大井ホッケー競技場などが建設される。
選手村は大会終了後、民間住宅に転用される。会議場・展示場としては日本最大だが、国際的には小さい東京ビッグサイトの拡張も現実的な検討課題として浮上する。東京湾の水質を浄化し、海上に森を広げる都の構想も現実味を帯びる。
1964年五輪の主会場だった国立競技場(東京・新宿)は収容人数を5万4000人から8万人に大幅拡大し、新たな「オリンピックスタジアム」として生まれ変わる。そのシンボルにあわせるかのように、東京全体もまた生まれ変わる。