東京、票読みズバリ 「安全・確実」に支持拡大
「五輪招致史上まれに見る大接戦」と言われた今回の戦い。フタを開けると東京があっさり抜け出していた。複数の招致関係者が語る。「前夜(6日)の時点で40票か41票は固めていた。悪くても決選投票には進める手応えがあった」。実際に42票入ったのだから、ほぼ完璧な読みだった。
■イスタンブール、予想外の頑張り
イスタンブールの頑張りは予想外だったが、それは東京の脅威にはならなかった。ブエノスアイレスで東京の関係者から余裕が感じられなかったのは、マドリードの追い上げを肌で感じていたからだ。「まさか、(イスタンブールが)マドリードとタイブレークとは想像していなかった」と日本オリンピック委員会(JOC)の橋本聖子常務理事。決選投票での圧勝を、この時点で予想できたようだ。
マドリードは国際オリンピック委員会(IOC)委員の宿泊ホテルのロビーで連日、フェリペ皇太子が遅くまでIOC委員と歓談して回った。一方の東京は、4日に開いた記者会見で竹田恒和・招致委員会理事長(JOC会長)が福島第1原子力発電所の汚染水漏れについて説得力の欠く回答に終始し、海外メディアに酷評されてしまう。そこから招致委内でも危機感が膨らんだ。
■最大票田の欧州切り崩す
それでも、東京の底堅い支持は変わらなかった。「安全、確実に大会を運営できるというメッセージはIOC委員に響いた」とある招致幹部。パリが24年立候補をもくろむとされる最大票田の欧州を切り崩し、アジアやオセアニアからも票を集めた。
別の関係者は「(経済危機下の)マドリードと(隣国シリア情勢を抱える)イスタンブールで本当にできるのか」とIOC委員に説いて回ったという。来年のロシア・ソチ冬季五輪、3年後のブラジル・リオデジャネイロ夏季五輪と準備の遅れが続き、IOC委員たちに「今回はしっかり中身を見て決める」という意識が広まっていた。
イスタンブールは最後に猛烈なロビー活動で巻き返した。だが、それはむしろ東京にとって追い風となった。「マドリードとは互いに落ちた場合は投票する約束ができていた」とあるJOC理事は語る。スペイン出身のIOC委員だけでも3票になる。さらに「正直に言って、欧州のIOC委員には(イスラム教国家の)トルコを嫌う感情が今もある」と国際担当者。
■「マックスで60票を想定」
決選投票で東京は18票伸ばして60票の大台に届いた。マドリードの1回目が26票だから、半数以上が東京に回ったと読み取れる。連日、ホテルでロビー活動に明け暮れていた競技団体幹部は「マックスで60票を想定していたからまさに予想通り」と胸を張った。
この快勝を引き寄せたのは、やはり最終プレゼンテーションだろう。"トップバッター"として高円宮妃久子さまが流麗なフランス語と英語のスピーチでIOC委員を引き付け、パラリンピアンで宮城県気仙沼市出身の佐藤真海は、涙ぐみながらスポーツの力を語った。
■一番情熱的で訴えかける力
そして、安倍晋三首相のスピーチがダメを押した。「汚染水漏れについて話す内容を決めたのは本当に直前。それでも予定よりもはるかに良かった」(世耕弘成内閣官房副長官)。ひいき目でなく、東京のプレゼンは3都市で一番情熱的で訴えかける力に富んでいた。
「4年前の失敗を教訓にできた」と招致委の水野正人専務理事は言う。大阪招致も含めれば10年以上。長い下積みは会心の勝利で報われた。
(山口大介)