シカ・クマと列車の衝突急増 対策は「やわらか車両」
シカやクマといった野生動物と列車の衝突事故が全国各地で後を絶たない。狩猟者が減っていることや、エサ不足で生息地域が拡大していることなどが背景にあるとみられ、件数は急増。鉄道各社は、シカなどが嫌う臭い成分を線路にまいたり、柵を設置したりと知恵を絞るが、決め手がないのが実情。苦肉の策で、衝突を回避するのではなく、ぶつかっても優しく押しのけ被害を小さくするよう対策を施した列車が春にも登場する。
狩猟者不足で頭数増える
JR東海によると、2010年度に管内で発生したシカと列車の衝突事故は過去最高の571件で、05年度(271件)から2倍以上に増えた。今年度は1月末時点で416件。「件数は過去最高に迫る勢い」(同社)といい、約3分の1は山間部を走る区間が多い紀勢線が占めている。
JR東日本は管内での衝突件数を公表していないが、多摩地域や東北、長野方面を中心に動物との衝突が後を絶たないという。昨年8月には岩手県釜石市の釜石線の陸中大橋―上有住間で列車がクマと衝突。運転を再開したところ、今度はシカをはねて再び停止するというケースもあった。
JR九州でも10年度のシカとの衝突数は06年度の約2.3倍の305件に上った。
事故増加の背景には「高齢化による狩猟者の減少」(環境省鳥獣保護業務室)がある。社団法人大日本猟友会(東京・千代田)の会員数は10年度で約11万4千人と、ピーク時の1978年度(約42万4千人)の3分の1以下に。後継者不足に加え、銃刀法改正で狩猟免許の更新手続きが煩雑になったことから担い手が減っている。逆に頭数が増えたシカなどがエサを求めて山を下り、列車と衝突することになる。
ゴムで線路外に押しのけ
鉄道各社とも手をこまねいているわけではなく、シカが嫌うライオンやオオカミなどのふん尿を薄めた水を線路上にまいたり、線路沿いにフェンスを設置するなど衝突防止策に取り組んできた。しかし、時間の経過に伴って動物が慣れきってしまう場合も多く、決定打は見あたらない。
このため、JR東海はシカが衝突した際に死なないようにし、線路の外に押しのける軟らかなゴム製の「衝撃緩和装置」を開発。5月から、事故が多発している紀勢線の特急列車の先端に装着することにした。担当者は「事故を減らすのは極めて困難。ぶつかっても被害を最小限に食い止める対策が必要と考えた」と説明する。
動物と列車の衝突事故は長時間の運休を招く恐れがあるほか、死骸の処理など鉄道各社の負担も大きい。農産物を食い荒らす食害も深刻になっており、野生動物の増加を抑えること自体が必須。環境省は「増えすぎた野生動物の駆除を担うハンターの育成は急務で、今後、狩猟者の研修やセミナーの回数を増やすなど育成策を強化したい」(鳥獣保護業務室)と話している。
関連企業・業界