歌川国芳の錦絵、80年ぶりに確認 戦前から所在不明
「奇想の絵師」として再評価されている江戸末期の浮世絵師歌川国芳(1797~1861年)の多色刷り浮世絵版画(錦絵)で、女性の幽霊をユーモラスに描いた作品「かさねのぼうこん」が、約80年ぶりに東京都内で確認されたことが13日までに分かった。戦前から所在不明になっていたが、国芳の画業の空白を埋める貴重な作品として注目されそうだ。

漫画・風刺画研究家の清水勲さんが2007年夏に都内の画商から購入、確認を進めていた。国芳収集家で洋画家の悳(いさお)俊彦さんは「国芳の円熟期の作。初刷りのような色を伝えている点でも大変珍しい」と高く評価している。
絵は縦約36センチ、横約25センチの和紙に墨と植物染料で刷られている。歌舞伎や三遊亭円朝の怪談ばなし「真景累ケ淵」の元になった累という女性の幽霊(亡魂)におびえて逃げ惑う男たちを描いている。
累の顔は、さまざまなポーズの人体や道具を巧みに組み合わせた「寄せ絵」で表現。転んでいる男たちは「一頭多体図」というだまし絵の手法で躍動感を出している。幕府が出版を許可した改印の形から、1847(弘化4)~52(嘉永5)年ごろの制作とみられる。
悳さんによると、1931年刊の画集「浮世絵大成」などにモノクロ図版が載ったのが最後だという。今回見つかった絵の余白に「KUNIYOSHI」と書き込みがあったことから、清水さんは「海外に流出していたのでは」と推測している。
当時人気だった妖怪絵に寄せ絵をミックスさせた手法について、悳さんは「アイデアが面白い。いろいろな遊び絵の工夫がなされている。国芳ならではの特徴のよく出た絵だ」と話している。
同作品は清水さんが編集した「保存版 諷刺画研究」(臨川書店)で紹介されている。〔共同〕