電力抑えた企業に報酬 「仮想発電所」が日本上陸
使わない電気は発電した電気と同じとみなすことで「仮想発電所」をつくることができたら――。東京電力が実施する電力需給調整(デマンドレスポンス)の6件の実証事業に、欧米で実績を重ねてきた大手海外勢の参加が11月下旬に決まった。
ネガティブな電力
参加するのは、フランスの電機大手シュナイダーエレクトリックなどの仏連合と、米国の節電サービス最大手エナノック(マサチューセッツ州)で、いずれも消費を抑制した分の電力を取引するビジネスモデル。電力の単位「メガワット」をもじって、ネガティブ(負)な電力の意味から「ネガワット」と呼ばれる注目の分野だ。
欧米では既に事業として成立しているネガワット取引。日本の産業界で導入した場合、電力会社の経済的メリットはどこまで出るのか、火力発電所など既存の電源との代替は可能なのか――などを実証事業で探る。
「日本の製造業の工場を回ってみると『電気代は高い、でも省エネは限界』と途方に暮れる声がかなりありました。現場の苦労を身にしみて感じますね」。仏シュナイダーの日本法人、シュナイダーエレクトリック(東京・港)で営業の前線に立つ梅村周市エナジーソリューション事業開発室ディレクターが話す。
同社は仏エナジープール、双日と組み、産業用デマンドレスポンスの分野で東電の実証事業に参加する。仕組みはこんな感じだ。金属やセメントなど電力を大量に消費する産業の20社前後の工場と契約し、東電から要請があった場合に、これだけの電力消費を短時間で抑制するとの約束を交わす。要請通りに電力を抑制してもらう代わりに、報酬として協力金(インセンティブ)を支払うというものだ。実証事業では5万キロワット分のネガワット電力を生み出すことを想定する。実証事業がうまくいけば、日本市場に参入する考えだ。
電力消費量は変えず
シュナイダーなど仏連合のサービスの特徴は、徹底したカスタマイズにある。企業側とは事前に綿密な打ち合わせを重ね、設備を使わない時間帯や量を詰めていく。企業にとっては、電力消費の総量は落とさずに、協力金をもらうことができる。この辺が省エネと違うところだ。シュナイダーによると、フランスでの協力金の相場は、電気代の5~15%。つまり、電力消費量は変えずに、電気代を5~15%削減できるのと同じことになるため、企業のやる気も働く。
一方、この仕組みは電力会社にとってもメリットがある。家庭も含めて広く薄くネガワットを集めるよりも、企業間契約で時間・量が決められている方が確実性が高まる。電力会社は電力ピークに合わせて、最大限の発電設備を保有しているが、「仮想発電所」を活用できれば、長期的に電力ピークのためだけに保有する設備を抑制できる効果がある。シュナイダーの坂田伸一事業戦略統括部ディレクターは「火力発電の代替になりうる潜在力は十分にある」と語る。
実証事業では2014年6月をメドに、デマンドレスポンスの制御を始める予定。現在は参加する工場を詰めている段階だ。13年夏以降、金属や自動車部品など40社近くを既に回ってきた梅村氏は、いずれも好感触な反応だと手応えを感じている。
もう一方の「黒船」。工場やビル向け節電サービスの世界最大手、米エナノックは14年1月に丸紅と合弁会社を設立し、日本市場に本格参入する。実証実験で様子見をするシュナイダーと異なり、打つ手は速い。2月までには、デマンドレスポンスのサービスを始める予定。5年後をメドに、原子力発電所の出力1基分に相当する100万キロワット分の契約を目指している。
大型店かブティックか
米国ではしばしば電力消費量の伸びに供給量が追いつかず、特に夏場に大停電が発生する。こうした実情から、デマンドレスポンスの研究と取り組みが早い段階から進んできた。ボストンを拠点とするエナノックは01年の創業で、ネガワット分野ではトップを走る企業。需要削減が可能な規模は全世界で原発9基分の900万キロワットにのぼる。
エナノックのデビッド・ブルスター社長は「日本の潜在的な市場規模は850万キロワットにのぼるとみている」と指摘。大手電力会社が導入を決めれば、加速して普及すると分析する。
エナノックは工場だけでなく、商業施設、オフィスビルなど幅広い顧客層を想定。シュナイダーに比べて間口が広い。
様々な顧客を対象に、多様な商品をそろえる米国大型店型のエナノック。これに対して、テーラーメードを目指すフランスのブティック型のシュナイダー。日本市場に熱い視線を注ぐ欧米大手のこの先の動向が面白そうだ。
(産業部 弟子丸幸子)
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