二酸化炭素を食べる虫 ミドリムシの恐るべき潜在パワー
原子力発電所の再稼働が見通せず、日本のエネルギーは当面火力発電への依存が高まらざるを得ない情勢だ。これに伴う問題はいくつもあるが、なかでも深刻なのが地球温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)の排出増大。だが、ここに一つ妙案がある。「二酸化炭素を食う虫」、すなわちミドリムシの活用だ。
ミドリムシは虫といっても、生物学的には植物と動物の中間的存在。鞭もうで自ら運動する一方で、細胞内には葉緑体を持ち、CO2を取り込んで光合成を行う。体長0.1ミリ以下の単細胞生物だが、これが恐るべき潜在力を秘めている。
東大発ベンチャーのユーグレナ(東京・文京)はこのミドリムシの大量培養に成功した。「ミドリムシはどこにでもいるが、バクテリアやプランクトンなどの天敵も多く、クリーンルーム以外では人工培養が難しかったが、当社は培養液を工夫することで大きなプールでの大量培養に道を開いた」と同社の出雲充社長はいう。
では、なぜミドリムシが温暖化の防波堤になるのか。ユーグレナではJX日鉱日石エネルギーなどと組んで、ミドリムシ由来のジェット燃料の開発にメドをつけた。2018年までの実用化をめざしている。
だが、これだけではサトウキビやトウモロコシなど他のバイオ燃料と変わらない。他に例のないミドリムシのすごさは、水中に大量のCO2を送り込めば、それだけ光合成が活発化し、増殖が加速して、収量が増えることだ。普通の植物はこうはいかない。通常の何倍もの濃度のCO2にさらすとかえって成長が阻害されるが、ミドリムシに関しては通常の350倍の濃度まではOK。収量が通常の30~40倍に増えるという。
そこでユーグレナが目を付けたのは、CO2をたっぷり含む火力発電所や製鉄所の排ガスだ。すでに沖縄電力の火力発電所に培養槽を持ち込んだ実証実験も済ませ、増殖加速を確認した。
出雲社長の次のテーマは、もっと大きな設備(例えば1キロ四方の正方形のプール)で大々的に培養できないか、ということだ。同社は石垣島で培養設備を運営するが、まだ規模が小さく、ジェット燃料に活用するにはコスト的に高すぎる。「そこで大規模プールを火力発電所や製鉄所の構内に造らせてもらい、排ガスをプール内に引き込むことで、超高効率のミドリムシ培養プラントをつくりたい。それが実現すれば、ジェット燃料のミドリムシ化も可能になる。これはエネルギーの国産化にもつながる」と出雲社長は力説する。
だが、悩ましいのは場所や資金を提供してくれるパートナーがなかなか現れないことだ。東京電力の横須賀火力発電所には実際に足を運び、「プールをここに造ればいい」というところまで確認した。同発電所は設備が古く、CO2の排出が多い。それをミドリムシに食べてもらえば、電力会社にとっても排出減につながり、悪い話ではないが、今の東京電力は残念ながらカネがない。それで今のところ計画は宙に浮いている、という。
パートナーは電力会社だけに限らない。CO2濃度の高いガスを排出する工場ならどこでもいい。製鉄所やセメント工場で、敷地に若干の余裕があれば、そこにプールを建造することは可能だ。このところやや関心は下がり気味とはいえ、地球温暖化の防止は重要なテーマだ。「ミドリムシに活躍の舞台を提供しよう」という企業はどこかにいないだろうか。
(編集委員 西條都夫)
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