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原発受注「フィンランドの陣」 日本勢3社、海外に活路

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東京電力福島第1原子力発電所事故から2年。停滞していた原発インフラ輸出を政官民で再加速する動きが出るなか、東芝などプラント3社が試金石と位置付ける受注競争がある。「フィンランドの陣」と呼ばれる2つの大型商談だ。

「フィンランドで負けは許されない」。こう社内を鼓舞するのが東芝の佐々木則夫社長だ。日本で多くの原発を手がける同社だが、海外で東芝製プラントを建設した実績はまだない。原発部門出身の佐々木社長にとっては是が非でも受注したい商談だ。

2月25日、朗報が届いた。フィンランドの原発事業会社フェンノボイマ社が同国北部ハンヒキビに建設を予定する原発1基について、東芝は大型炉建設の場合の優先交渉権を得た。同社は出力160万キロワット級の大型炉「ABWR(改良型沸騰水型軽水炉)」を提案しており年内の契約をめざす。ただフェンノボイマ社は中型炉(出力100万~130万キロワット級)への変更も検討中で、この場合は仏アレバとロシア企業との受注競争となる。

もう一つ、東芝が受注を狙う大型炉商談が同じフィンランドにある。同国南西部のオルキルオト原発4号機新設を巡る商談で、日立製作所・米ゼネラル・エレクトリック(GE)連合と三菱重工業、仏アレバ、韓国水力原子力会社の5陣営が今年1月に入札を終えた。

オルキルオトは建設済み2基に加え、出力160万キロワット級の大型炉の建設が進む"原発銀座"にあり、4号機は2020年の稼働をめざしている。15年夏に落札業者が決まるまで、世界で大型炉を建設できる5陣営が激しい受注競争を繰り広げる。

日本勢にとっては自社の原発事業拡大を占う重要な案件となる。まず東芝の強い切迫感の背景には自社開発するBWR(沸騰水型軽水炉)の需要減がある。

原発の炉型は主にBWRとPWR(加圧水型軽水炉)の2つあり、稼働中の約7割はPWRが占める。BWRは東芝と日立、米GEが開発。主に日本と米国で採用され、アジアや欧州でも普及が見込まれていたが、2年前の東電事故で情勢が一変。福島原発と同じ炉型であるBWRを敬遠する動きがアジアなど新興国で加速し、日本が官民一体で受注活動をするベトナムやトルコでもPWRを求める動きが出た。

 東芝がフィンランドの2つの原発に提案したのはABWRと呼ぶ新型炉で、耐震性を大幅に高めるなど安全機能を強化したのが特徴。原発の稼働実績が豊富なフィンランドの電力会社は「ABWRの安全性能を評価しており、BWRを敬遠する動きは見られない」(東芝幹部)という。

東芝は傘下の原子力大手、米ウエスチングハウス(WH)がPWRを手がける。米WH製の新型炉「AP1000」は東電事故後も米国と中国で計8基が建設中だ。東芝は自社のBWRと米WHのPWRの2種の炉型を持つ世界でも類のない原発プラント企業だが、東芝単体でBWRの受注を増やさないと自社の原発事業は縮小せざるを得ない。

BWRだけを手がける日立にとっても重要な受注案件となる。同社は昨年11月、約890億円という巨額を投じて英国の原発事業会社「ホライズン」を買収。日立製BWRを建設する場を欧州に求めた。オルキルオト原発4号機には原発事業で提携する米GEが主導して開発した「ESBWR」と呼ぶ最新炉を提案したが、同じBWRのため受注できれば部品調達などでコスト削減効果が見込まれる。

日本企業が
関連する海外の主な受注案件
国・地域主な受注活動
【東 芝】
フィンランド・TVO社のオルキルオト4号機に入札。日立など4陣営と競合
・フェンノボイマ社のハンヒキビ1号機で大型炉の優先交渉権獲得
チェコ子会社の米WH社がテメリン原発に入札。ロシア企業と競合
米国34年ぶり新規建設認可の原発に米WHの新型炉「AP1000」採用
中国WH製「AP1000」4基が建設中
トルコ米WHと受注活動。三菱重工業・アレバ連合、韓国企業などと競合
【日立製作所】
フィンランド米GEと組みオルキルオト4号機に入札
英国原発事業会社「ホライズン」を12年に買収。英国内で新設めざす
リトアニア12年に優先交渉権獲得。国民投票で反対票多数占め、先行きは不透明
カナダ米GEなどと組み小型原子炉の共同開発を計画
【三菱重工業】
フィンランドオルキルオト4号機に単独で入札
ヨルダン仏アレバとの中型炉合弁会社が受注活動。ロシア企業と競合
米国テキサスとバージニアの原発運営会社から計3基の受注内定
トルコ仏アレバと受注活動。東芝・WH連合や韓国企業などと競合
アルゼンチン仏アレバと受注活動へ向けた準備開始

(注)ベトナムでは政官民一体で2基の原発受注(建設メーカーは未定)。WHはウエスチングハウス、GEはゼネラル・エレクトリックの略

日本で唯一のPWRメーカーである三菱重工も大型炉の事業拡大には負けられない商談だ。同社は出力110万キロワット級の中型炉では、仏アレバと共同開発・販売の合弁会社「アトメア」を設立し世界各地で受注活動を展開する。一方、150万キロワット級の大型炉は単独で世界展開する。

三菱重工は大型炉の重要市場を米国と位置付け3基の受注内定を得たが、同国の電力会社は新型天然ガス「シェールガス」増産に伴うガス価格下落を受け「脱・原発」が進む見通し。米国では政府主導で小型炉の導入が進む観測もある。大型炉の需要が根強くある欧州での受注獲得は同社の原発事業拡大の鍵を握る。

オルキルオト4号機は出力145万~175万キロワットの大型炉を建設する計画。一般的に大型炉1基の受注額は5000億円前後とされ、建設後の保守も小型炉に比べ利益率が高い。

日本の3社が懸念するのは欧州各国で原発メーカーに対し、事業会社への出資を求める傾向が強まっている点だ。債務危機などの影響で欧州の原発事業会社の多くが資金調達に苦しむ。日立は優先交渉権を得ているリトアニアの原発新設計画で、事業会社に対し出資を求められている。フィンランドでも原発プラントを受注した企業に対し「出資要請がある可能性はある」(東芝幹部)という。

東電事故後に世界各地で停滞していた原発新設を巡る動きは、中国やロシア、北東欧、東南アジアなどで再加速する機運が高まっている。日本政府も2月にサウジアラビアと協議を始めるなど原発輸出を政官民一体で再び強化する方針。日本で再稼働の先行きが見通せないなか、原発プラント3社は海外に活路を見いだすしかなく、フィンランドは大型炉事業の存続を占う正念場となるかもしれない。

(産業部 松井健)

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