シェールガス大国めざす中国 「野望」阻む課題山積
米国を起点とする「シェールガス革命」が世界のエネルギー供給構造を変えつつある。変化の波は経済・産業の幅広い領域に及ぶ。だが、シェールガスが眠るのは米国だけでないはずだ。なかでも中国には米国を上回る埋蔵量がある。中国がシェールガス大国となる日が来るのだろうか。
「生産は北米だけ」が現状
米国エネルギー省は6月、世界のシェールガスの資源量についての最新の評価を公表した。調査41カ国中、最も多いのは中国の1115兆立方フィート。2位にアルゼンチン、3位にアルジェリアが続き、「革命の発祥地」である米国は4位。中国の6割の水準である665兆立方フィートにとどまる。
だが、ボストンコンサルティンググループが7月にまとめた調査によると、2012年末時点で米国とカナダでシェールガス生産のために掘られた井戸は11万本。これに対し、北米以外の井戸は200本以下。シェールガスとシェールオイルの生産量の99.9%は北米に集中している。現状では生産は北米だけと言っていい状況だ。
各国が手をこまぬいているわけではない。なかでも中国政府はシェールガス開発の5カ年計画を公表し、15年に65億立方メートル、20年に600億~1000億立方メートルに引き上げる意欲的な生産目標を掲げた。
中国石油天然気(ペトロチャイナ)や中国石油化工集団(シノペック)など国有石油会社が四川省などで試験生産に着手し、政府が実施した鉱区入札には70社以上が参加した。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルや米エクソンモービルなど欧米メジャー(国際石油資本)も中国の石油大手と組んで次々参入している。
だが専門家は中国のシェールガス生産が軌道に乗るのは「相当時間がかかる」(日本エネルギー経済研究所の橋本裕研究主幹)との見方で一致する。政府が掲げる15年に65億立方メートルの生産目標は中国の天然ガス消費量の数%にすぎない。それでも石油天然ガス・金属鉱物資源機構の竹原美佳主任研究員は「目標の達成は無理。うまくいって40~50億立方メートル」と断言する。
なぜ中国の生産が伸びないのか。日本の政府系機関のトップは海外の国際会議で同席した中国の資源関係者から、「中国のシェールガスはそんなに魅力的ではない。資源量は机上の数字にすぎない。問題は地質が楽観できないことだ」と聞かされた。
竹原氏によると、中国のシェールガスの主要産地の一つと期待される四川省は地質の博物館と言われるほど構造が複雑だ。ガスの層も米国に比べてはるかに深い場所にある。
シェールガスの採掘には岩盤層に高圧の水を注入し、できた割れ目からしみ出るガスを抜き取る技術が必要だが、「米国の技術がそのまま通用するわけではない。水に混ぜる物質の割合や圧力など中国の事情にあった技術が足りない」(竹原氏)。こうした技術の育成にも時間が必要だ。
地上も平たんな土地が広がる米国と異なり、四川省は険しい山が続く。加えて、「長い石油・天然ガス生産の歴史がある米国では国内に網の目のようにつながるパイプラインがあるが、中国では掘り出したガスを運ぶインフラが整っていない」(橋本氏)。
岩盤層に圧入する大量の水の確保も課題だ。これらの条件を考えると、中国のシェールガス生産は従来型の天然ガスに比べはるかに割高になってしまう。さらに企業の投資意欲をそぐ要因となっているのが、政府によるガスの価格統制だ。国産ガスの卸販売価格は低く抑えられ、コスト高のシェールガス開発は後回しにならざるをえない。
開発が軌道に乗るのは20年以降
政府は6月、国産天然ガスと、パイプライン経由で輸入するガスの産業向け価格を15%引き上げた。四川省ではシェールガスを運ぶパイプラインの建設も始まった。中国政府が、ペトロチャイナの親会社である中国石油天然気集団(CNPC)に技術上の困難を克服し、開発を急ぐよう求めたとの報道もある。
それでも開発が軌道に乗るのは20年以降になりそうだ。中国にとってエネルギー確保は経済成長の生命線だ。1次エネルギー消費の7割を占める石炭の比率を下げ、増大するエネルギー需要に応えるには天然ガスへのシフトが欠かせない。
すでに中国はアジア最大のガス消費国だ。国際エネルギー機関(IEA)の見通しによると、30年の需要は10年に比べて約3倍に増える。天然ガスの輸入比率はすでに30%。今後も増える輸入をどれだけ抑えられるかを、シェールガスが左右する。
米中両国政府が7月にワシントンで開いた戦略・経済対話で、シェールガスが話題となった。中国はシェールガスを使った米国産液化天然ガス(LNG)の輸入に関心を示し、中国国内のシェールガス開発に米国企業が投資するよう求めたという。
そこにはエネルギーの安定確保と同時に、シェールガスの開発ノウハウ獲得への思惑が見え隠れする。中国の石油大手は北米のシェールガス開発への投資も活発化させている。しばらく足踏みが続くとはいえ、中国はシェールガス大国への野望をあきらめたわけではない。
(編集委員 松尾博文)