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ダイナミックな走り、坂道トレーニングで養成

ランニングインストラクター 斉藤太郎

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日ごろからランニングをしている人でも、あまり起伏のない道を走ることが多いのではないでしょうか。坂道に出くわすと迂回してしまう人も少なくないようです。坂道を使って走るトレーニングは、効率のいい大きなフォームを養成するのに有効です。坂道練習を時々取り入れるようにすれば、平たんなコースを走る普段のランニングがより一層生きてくることでしょう。

我慢や根性が目的ではない

私が指導しているランナー向けの練習メニューでは、坂道を使って走るトレーニングを1~2週間に1回程度組み入れています。その目的は息が上がってきたり脚の筋肉が疲れてきたりする苦しさに耐えることでもなく、気持ちで負けないといった根性を養うことでもありません。

平たんなコースを走るときのフォームと比べると、上り坂を走るときには動きが大きくなり、体全体の筋肉をより多く動員することになります。足腰にかかる負荷も大きくなります。

起伏のない道のランニングは、いわば振り子が真ん中に収まった状態。大した変化がなく体がよどんでしまいます。そうした走りの振り子を右にも左にも大きく揺さぶるような刺激を入れると、体は良い反応を示してくれるのです。

呼吸が乱れない心地いいペースのジョギングばかり続けていると、フォームは徐々に小さくなっていく傾向があります。体の可動域のレベルで「10」動かしたいと思っていても、10の動きまででとどまってしまうと、9、8、7と次第に縮こまっていきます。

そこで、普段のジョギングより速いペースの走り、大きな動きや少し呼吸を上げるような要素を取り入れ、15や20のレベルの運動を時にはこなすようにしましょう。その一環で坂道練習を活用します。

平地ジョギングとセット、上り下りを反復

練習メニューの一例として「坂道インターバル」を紹介しましょう。使う坂道は150~200メートルくらいを想定したものです。

まずは上り坂をメーンにした練習です。坂道ランに入る前に平地で15~30分のジョギング。坂道は全力の7割くらいの快調なペースで上り、折り返して下りは呼吸を整えるジョギングのペースです。これを5~7往復。それから再び15~30分の平地ジョギングで締めくくります。

次に下り坂。まず平地で10~15分のジョギングから入ります。坂道は5~10キロレースでの下り坂ペースで駆け下り、折り返して上りは歩幅を狭めてトコトコゆったりペースで呼吸を整えます。これを3~5往復。それに続いて、3~5キロをハーフマラソンのペースか心地いいペースで平地ランニング。代わりに1キロ走を3~5本という方法でもいいでしょう。

興奮状態で大きく速い動き可能に

この練習のポイントは坂道ランの前後の運動も大事にするということです。準備運動を済ませていきなり坂道を走るというのはNG。まずはジョギングで体を温めてからメーンの坂道練習に入ってください。

さらに坂道を走る前に骨盤周りのストレッチやスクワットを入れることでより体が覚醒し、多くの筋肉を使って走ることができます。下り坂を走るときには着地時に体重の5倍くらいの衝撃を受けるといわれますが、こうしたダメージによるケガのリスクを抑えることもできるでしょう。

坂道ランを終えたら練習はおしまい、ではもったいないです。坂道を走ることで筋肉にスイッチが入り、ある種の興奮状態でいつもより大きく速い動きができる状態になっています。

そこで、ゆとりのあるフォームで平たんなコースを走ってみてください。メニューで紹介したペース走などはその一例です。疲れているときや時間のないときはクールダウンジョグをするだけでも構いません。

上りは後ろに蹴らず、下りはのけ反らない

坂道ではどのようなフォームで走ればいいでしょうか。上り坂では、前傾姿勢で骨盤も前傾した状態を保ちます。坂の頂上を見てしまうと顎が上がるため、視線は5~10メートルくらい前の路面に。私は「おへそから前方斜め下方向へ糸で引っ張られているような感じ」とよくアドバイスしています。

地面を後ろに蹴ろうとするような走り方は間違いです。地面をしっかり捉えるように着地し、その足に体重を乗せ切ることを意識してください。腕振りは肩、二の腕、肘を低い位置でキープ。苦しくなると次第に高くなってきてバランスが崩れた走りになるので気を付けましょう。

下り坂を走るときは、足から進むのではなく、まず重心を前方斜め下方向へ崩します。体が傾くのにつれて足が自然と前に出て着地。その足が地面から離れたあとに後方へ流れてしまわないよう、素早く前方へ引き付けます。この回転運動のような動きを左右交互に続ける走り方です。

腕を引いた後すぐに前に振り戻す「腕の返し」を速くすることでピッチがどんどん上がります。うまく体重が乗ったリズムの良い走りになるでしょう。

転ばないかと怖がって後ろにのけ反ってしまうと、着地のたびにブレーキが掛かります。棒高跳びで棒を突くような角度で路面を捉えるため力が上方向へ逃げて、体が浮いては落ちるドッカンドッカンといった感じの走りになってしまいます。

坂道の走り方は連載の「坂道ランは気力と根性じゃない 前傾姿勢で楽々」(2012/11/28公開)も参考にしてください。

土日に取り組むペース走やインターバル走など負荷の高い練習の効果を上げるために、2週間に1回くらいの頻度で週半ばの平日に坂道練習を入れるのがいいでしょう。

このほか日曜に高負荷の練習に取り組んだり、記録を狙わないハーフや10キロのレースに参加したりするような場合に、土曜に坂道練習を入れて2日間セットでという考え方もあります。やや疲労を抱えながらも、日曜の走りは良いフォームで取り組むことができるはずです。

着地衝撃を受け止め推進力に生かす

坂道練習を特に勧めたいのは次のようなランナーです。レース終盤にいつも脚に疲労がたまる人。骨盤周りが上手に動かせていないため、膝から先の動きで走ってしまっている可能性が大きいです。それから腰の位置が落ちているフォームの人。着地衝撃に耐えられない走り方で、自分の体をきちんと支える技術が身に付いていないと思われます。

また着地する足に体重が乗っていない人は、着地衝撃を受け止めて推進力に生かすことができず、地面を蹴って進もうとしてしまいがちです。常にふくらはぎに力みがあるような無駄な力が入った走りといえます。このほか走り全体に力強さが感じられない人。パタパタ走っているなどと言われたことはないでしょうか。小さな筋肉ばかり使っていて、体幹・体の深層の筋肉が機能していない走り方です。

坂道練習に適した路面として、下りでは斜度が比較的に緩やかな坂がいいでしょう。例えば皇居周辺では半蔵門から桜田門にかけての下りです。上りではそれよりもきつめの坂。皇居周辺の竹橋から始まる上りです。ただ皇居ランでは左回りの一方通行で走るのがマナーなので、坂を折り返して上り下りする練習は控えるようにしましょう。

日ごろの練習で坂道を走ることによって、「坂は苦手」との意識を払拭することも期待できるのではないでしょうか。レースで坂道に差し掛かると力んだり緊張感が高まったり。そんな呪縛から解放されて、気持ちよく走って、記録更新につながるといいですね。

<クールダウン>島一周、多彩な地形が走りを磨く
 2月に仲間と伊豆大島で合宿をしてきました。3日間の期間中、カメリアマラソン10キロの部出場、三原山登山、そして島一周46キロのランニングと盛りだくさんの内容でした。定宿の民宿「おくやま荘」はニッポンランナーズの金哲彦理事長や有森裕子さんも利用していて、私にとって練習後の癒やしの場となっています。
 島一周46キロは「放っておいてもフォームが良くなって帰ってくるコース」(金理事長)。高低差は約500メートルで、島北部の宿からスタートして初めの10キロはひたすら上り、細かいアップダウンがしばらく続いた後で5キロを一気に駆け下りる。下り切った先は長さも斜度も様々な上り下りが何十回と続きます。
 変化に富んだコースは走り進んでいくうちに、自然の地形に対してどういう姿勢をとるべきか、脚運びや腕振りのリズムはどうすればいいかなどを、4~5時間かけて体得できるのです。これは皇居周辺5キロを9周しても得られるものではないでしょう。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。

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