速い決断にこそ価値 担当者に決裁権与えよ
ブランドン・ヒル(米ビートラックスCEO)
新しいイノベーションや、世界を変える様な商品が日々生み出されるシリコンバレーと、イノベーションのジレンマに苦しむ日本を比べると、最も大きな違いは決断の速度だと感じる。
一説には、日本の一般的企業がひとつの決断に要する時間と、シリコンバレーの企業のそれとのスピード差は100倍ほどあると言われている。例えば日本企業が1カ月かけて下す決断を、シリコンバレーの会社は実に2日ほどで決めていることになる。組織の形態や、それぞれの担当者の決裁権の範囲等、様々な理由があると思われるが、ビジネスにおいて、この決断スピードの差は決して小さくない。
決断スピードと決断内容の価値は比例
新しい商品やサービスを素早く世の中に送り出すためには、企画の段階からやるかやらないか、どのような仕組みで進めるか、担当を誰にし、外部リソースはどこを利用するか、支払い条件をどうするかなど、短い期間ですべてを決める必要がある。そのためにはそれぞれの担当者の役割を明確にし、それぞれが与えられた決裁権の中で最良の決断を下す必要がある。

もちろん、ひとつひとつの事柄に対して慎重に情報収集を行い、社内で議論し、上司にその内容を提言し、吟味した結果、最善の決断を下すのは重要だ。だが、決断を下すスピードが遅くなればなるほど、たとえその決断内容が正しかったとしても、決断のもつ価値は必ず低くなる。言い換えると、決断スピードと決断内容の価値は比例する。なぜなら、現在議論している内容を数カ月後に決断した場合、ビジネスを取り巻く環境がめまぐるしく変化する現代では、議論していた内容が決断時には正しくない結論になりかねないからだ。例えば今、ひとつのビジネスモデルを開始するかどうかを話し合ったとしても、半年後には競合サービスが登場している可能性もある。したがって、議論と決断スピードの時間差は少なければ少ないほどよい。
責任者のいない打ち合わせ
この点をシリコンバレーの企業は非常に良く理解していて、決断を下すスピードが非常に速い。実経験からも、米国企業とのプロジェクトの話をする場合、最初のミーティングから契約まで1週間以上かかることの方が少ない。先日決まった案件も、打ち合わせに要した合計時間は45分を超えなかった。米国企業には担当者レベルで、できるだけ速いスピードで決断し、うまくいかなければそこから学べることは学び、先に進むという流れがビジネスプロセスとして根付いている。その一方で、多くの日本企業の場合、現場の担当者に決裁権が与えられていないケースが多く、打ち合わせ時に話した内容を後日上司に報告し、稟議(りんぎ)を通す必要がある。
決裁権のある上司が現場の打ち合わせに参加していないケースがほとんどなので、詳細な議論の内容や現場の雰囲気を感じ取る事はできず、なかなか承認できないまま、時間だけが過ぎ、決断を下す頃には時代遅れになっていることも少なくない。また、複数のメンバーが参加している打ち合わせでも責任者がおらず、打ち合わせの1時間を無駄に過ごしてしまうこともある。以前に実際の打ち合わせの場で思わず「いまここで決断できない理由はなんでしょうか」と聞いてしまったほどだ。
日本では一般的なプロセスであるのかもしれないが、シリコンバレー的な感覚で考えると、非常に歯がゆい思いをしてしまう。今後、日本企業が世界市場で活躍するには、担当者へ適切な決裁権を与えることと、決断スピードを引き上げるのを最優先に考える必要があるのではないだろうか。
〔日経産業新聞2014年9月24日付〕