Salesforce、Slackを2.9兆円で買収 Microsoftに対抗
【シリコンバレー=佐藤浩実】企業向けソフトウエア大手の米セールスフォース・ドットコムは1日、ビジネスチャットを手掛ける米スラック・テクノロジーズを買収すると発表した。買収額は277億ドル(約2兆8900億円)。世界で14万社が利用しているスラックとの連携を深め、企業向けのサービスを幅広く手掛ける米マイクロソフトに対抗する。
買収額はスラックの時価総額(1日時点で250億ドル)を約1割上回る。現金と株式交換を組み合わせて支払い、2021年7月までに手続きを終える計画だ。買収後もスラックを共同創業したスチュワート・バターフィールド最高経営責任者(CEO)が引き続き事業を率いる。
スラックを傘下に収めることで、企業が社内や取引先との連絡で日常的に使うアプリケーションを手に入れる。スラックは米IBMや近畿大学など約14万社・団体が有料で利用しており、無料ユーザーも多い。1日あたりの接続時間は10時間にのぼり、セールスフォースの営業支援ソフトなどと連携させやすくなる。
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セールスフォースは現CEOのマーク・ベニオフ氏が1999年に設立した。売上高は20年1月期で170億ドル。クラウドコンピューティングを活用してソフトを提供する「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」の先駆けとなった企業として知られる。
顧客情報管理(CRM)ソフトから始め、企業買収を重ねてマーケティングや通販サイトの構築、データ分析などに事業を広げてきた。スラックの買収額は19年に取得したデータ可視化ソフトの米タブローソフトウェア(157億ドル)を上回り、セールスフォースにとって過去最大となる。
買収により、スラックは新たな利用者の獲得にセールスフォースの営業力を生かせるようになる。スラックは19年6月にニューヨーク証券取引所に上場し、20年1月期の売上高は6億3042万ドル。黒字化のめどがたたず株価が伸び悩んでいた。大手の傘下入りで中立性が薄れるのを嫌う利用者が離れる懸念はあるものの、短期の収益を気にせず新機能の開発などに集中しやすくなる。
買収交渉はセールスフォースから持ちかけ、スラックの議決権の多くを握るバターフィールドCEOら同社の経営陣が受け入れた。ベニオフCEOは1日の会見で「協業を促すスラックのアプローチは素晴らしい。両社が一緒になれば顧客の体験が根本的に変わる」と話した。
両社を結びつけた背景には、米マイクロソフトという共通の競争相手の存在がある。
スラックは14年に、電子メールの代替をめざしてチャットのサービスを始めた。米西海岸のIT(情報技術)企業から徐々に利用者のすそのを広げ、19年初めまでに毎日1000万人が使うサービスに成長した。マイクロソフトが16年末に同種のサービス「チームズ」を始めた際には新聞広告で「機能をまねるだけでは愛されるものは作れない」と挑発した。
ただ、新型コロナウイルス禍で追い風が吹いたのはマイクロソフトのほうだった。「エクセル」などの継続課金サービスを契約していれば追加料金がかからない仕組みが受け、在宅勤務を迫られた企業が続々とチームズを使い始めたためだ。サティア・ナデラCEOによれば、チームズの利用者数は10月に1億1500万人を突破し、1年で約6倍に増えた。
セールスフォースにとっても、マイクロソフトは脅威になりつつある。同社が「ダイナミクス」と呼ぶCRM事業の売上高は年30億ドル。セールスフォースの売上高と比べれば5分の1以下だが、他の業務ソフトとの連携を武器に営業攻勢を強めている。米フューチュラム・リサーチの主席アナリスト、ダニエル・ニューマン氏は「競争が激しくなるなかでセールスフォースは利用者をつかむキラーアプリが必要だった」と指摘している。
両社の買収交渉は11月25日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが最初に報じていた。
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