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細きトンネル 鉄路開いた 長浜―敦賀に近代の礎

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新橋―横浜に国内初の鉄道が開通してわずか10年後の1882年(明治15年)、滋賀県長浜市と福井県敦賀市を結ぶ旧北陸線(当初は敦賀線)が部分開通した。早い時期の鉄道敷設は太平洋側と日本海側をつなぐルートとして重視されたからだ。今年、トンネルなど関連する文化財が日本遺産に認定され、近代日本の礎を築いた鉄路に光が当たっている。

130年超え現役

滋賀・福井の県境を貫く柳ケ瀬トンネル。完成から130年以上たつ今も、県道として自動車が通る。6分半おきに一方通行の向きが切り替わり、トンネル両側の出入り口には信号待ちの車列ができていた。

長さ1352メートル。車1台がやっと通れる幅しかなく、ものすごい圧迫感がある。貫通を最優先し、掘削を最小限にとどめた表れだ。碑文は「洞中の石質は柔脆(じゅうぜい)にして崩とう易(やす)し」と難工事を伝える。滋賀側に向かって距離1キロあたり高度25メートルの急勾配。当時の鉄道の登坂能力ギリギリだった。

部分開通から2年後にトンネルが完成し、長浜―敦賀港(金ケ崎)の42キロは2時間36分で結ばれた。山越えに苦労した物流のボトルネックが押し広げられ、近代化の一翼を担った。

すぐ近くにある小刀根(ことね)トンネルは1881年(明治14年)に完成した。内壁は重さに耐えるように下段に御影石、上部はアーチをつくりやすいレンガが積まれている。県道から外れて使われていないため、建設当時の姿をゆっくり観察できる。

「明治初期のトンネルが原形をとどめているのは奇跡だ」。トンネル探究家として、各地で見学ツアーを案内する花田欣也さんは話す。測量を除いてお雇い外国人に頼らず、日本の技術者による。「日本の鉄道トンネルの原点といえる。この自信がその後の鉄道網の発達や青函トンネルなどにつながる」と意義を強調する。

1882年(明治15年)には旧長浜駅舎が完成した。木骨構造で石灰コンクリートの壁を持つ2階建ての洋風建築で、現存する国内最古の駅舎だ。現在の長浜駅の南側にあり、鉄道資料館として公開されている。近くに船着き場があり、長浜―大津は当初は湖上ルートを取り、蒸気船が鉄道連絡船として就航した。

琵琶湖岸と敦賀港を結ぶ鉄道の敷設は1869年(明治2年)、東京―京都や京都―神戸と同時に決定されている。長浜市立長浜鉄道スクエアの支援学芸員、木村宏さんは「古代から日本海側の産物を畿内に運ぶ重要なルートだった。明治時代にも東北や北陸のコメや海産物、太平洋側の工業製品といった物資の輸送路として重視された」と指摘する。当時の旧北陸線は運賃収入の4割以上を貨物が占めたという。

人の移動にとっても世界につながる重要な鉄路だった。1902年(明治35年)、敦賀―ロシア・ウラジオストクを結ぶ定期国際船が就航。シベリア鉄道が開通すると、日本から15日間で到達する最短の渡欧ルートとなった。1912年(明治45年)には、新橋から敦賀港まで「欧亜国際連絡列車」が運行した。東京から欧州まで一枚の切符で渡航できた。

「命のビザ」の道

このルートを通じて、歌人の与謝野晶子がパリに向かったという。第2次大戦中にはリトアニア領事代理の杉原千畝(ちうね)が発給した「命のビザ」で多くのユダヤ人難民が入国している。

一連のストーリーを長浜市と敦賀市、福井県南越前町がまとめ、日本遺産「海を越えた鉄道~世界へつながる鉄路のキセキ~」として今年6月に認定された。鉄道遺産を中心にした構成文化財は45件。トンネルが14件を占めるのは急峻(きゅうしゅん)な地形を克服した証しだ。

周辺地域は2023年に北陸新幹線の敦賀延伸を控える。新型コロナウイルスの感染拡大という逆風はあるが、地元では日本遺産の認定を「コアな鉄道ファンにとどまらず、より多くの人が長浜や敦賀を知るきっかけにしたい」(長浜市観光振興課の堤昭彦副参事)と期待が高まっている。

(木下修臣)

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