鉄道・道路制限なし、ロックダウンと違い 緊急事態宣言
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が緊急事態宣言の発令に踏み切る。対象区域の知事は人が多く集まる場所の使用制限や停止を要請・指示できるが、根拠となる法令には、米欧などで相次ぐロックダウン(都市封鎖)の規定はない。鉄道や道路、ライフラインなどは従来通りに機能する一方、ショッピングセンターは食品など生活必需品の売り場を除き、営業を見合わせることになるとみられる。
改正新型インフルエンザ対策特別措置法の緊急事態宣言は政府が対象区域を示し、具体的な措置は都道府県知事が行う。
知事は同法45条1項に基づき外出自粛が要請できるが、海外と異なり無許可の外出に罰則を科すような強制力はない。通勤や通院、食料の買い出しといった暮らしに欠かせない目的であれば自粛を求められない。
これに伴い、企業もライフラインに関わるビジネスは継続され、道路も遮断されない見通しだ。JR東日本は当面の間、通常ダイヤ通りに電車を動かす。ただ「行政機関の要請を踏まえて対応していく」(同社)と、今後のダイヤ変更に含みを持たせる。
エネルギーも供給に向けた作業が続く。首都圏の電力供給を担う国内火力発電最大手のJERAは東京都内にある本社ビルの封鎖に備え、代替の本社機能を都内の別地域に確保した。東京ガスは液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地や保安部門で複数班を導入し、交代勤務で互いの班が濃厚接触しないようにした。
大手銀行各行も店舗業務を継続する方針だ。三菱UFJ銀行は一部店舗で業務を縮小する可能性はあるが、原則として全店で営業を続ける。みずほ銀行も全店で営業を続ける方針で、店舗の従業員の交代勤務を始めた。三井住友銀行も原則営業する。
また、特措法45条2項では、多くの人が集まる施設に対して知事が使用制限や停止を要請・指示できるとしている。これも強制力はないものの、45条4項に基づき事業者名などを公表するため、一定の効力があるとみられる。
対象は同法施行令11条に規定され、学校や保育所のほか、建物の床面積が1千平方メートルを超えた場合に対象となる施設を挙げた。劇場や映画館、博物館、図書館、キャバレー、自動車教習所、学習塾、スーパーマーケットなどが含まれる。
政府関係者は、地域の小規模店は業種を問わず「原則としては対象から外れる」とみる。一方、面積1千平方メートル超の大型施設に入居している理髪店や質店は対象になる。百貨店やスーパーの食品売り場は営業できる。
関東地盤の食品スーパーのいなげやは営業を継続するが、買いだめなどによる過度の混雑を防ぐため、入店できる客の人数を制限することを決めた。本部から店舗に応援人員を派遣し、入退店を管理する。同時に自社の配送センターから店舗への物流トラックを増便するなど、店頭での品切れ防止にも取り組む。
使用制限の対象のうち、どの施設に要請を出すかは各知事の判断に委ねられている。東京都は6日、一定の面積を持つ商業施設に対して休業を要請する方向で最終調整に入った。店舗面積が100平方メートル超の商業施設のほか娯楽・遊戯施設を対象とする見通し。食料品や医薬品といった生活必需品を扱う店舗には要請しない。
既に5月の大型連休明けまで休校を延長している学校については、状況次第で再延長も検討する。都によると、知事が使用制限を要請できる学校には私立も含まれる。保育所や社会福祉施設については「利用者の事情を考慮する必要があり、区市町村とも協議して判断する」(総務局)という。
大阪府は緊急事態宣言が発令された場合の行動計画を既に決めている。学校や幼稚園・保育所、通所や短期間入所の介護施設などを対象に使用の制限を要請・指示する。通勤や通院、食料の買い出しなどを除き、不要不急の外出はしないよう求める。百貨店やホテル、劇場、大学などのほか、学習塾や理髪店など民間施設に対しても使用を制限する。
緊急事態宣言を受け、生活は自宅中心になるが、感染予防のために換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話する密接場面――が重なる「3つの密」に注意しながら日々を送ることになる。
政府の専門家会議は3つの密が重なりやすい場所としてライブハウスやカラオケ、ナイトクラブなどを例示している。見知らぬ乗客が乗り合わせる通勤電車は会話の機会が少ないため、3条件全てに該当するわけではないとするほか、鉄道各社が常に窓を開けるなどして換気も実施している。
新型コロナウイルスの感染症法上の分類が2023年5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行しました。関連ニュースをこちらでまとめてお読みいただけます。
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