高齢飼い主、老犬介護困難 「最期みとって」相談次々
高齢の飼い主が老いた愛犬を世話する「老・老犬介護」に行き詰まるケースが目立つ。医療の進歩で高齢犬が増える一方、飼い主が体の自由が利かなくなったり、経済的に困窮したりするためだ。犬を介護する「老犬ホーム」には飼えなくなった犬の引き取りを求める相談が相次ぎ、関係者は「飼う際は最期まで面倒を見られるか、慎重な判断が必要」と強調する。
「うちにまだ死なない犬がいる。どうにかならんかね」。福岡県古賀市の老犬ホーム「アスル」を訪れた高齢女性がこう訴えた。飼い犬は16歳で、犬の平均寿命(15歳程度)を過ぎていた。認知症なのか夜鳴きがやまず、女性は世話に疲れ切った様子。「お金を払ってもらえますか」。アスル代表の小野洋子さんが尋ねると「無料で引き取ってくれないなら……」と帰っていった。
別の高齢女性から電話で「犬が死ぬまで30万円で預かってほしい」と頼まれたこともある。犬は12歳で、長寿なら費用に到底見合わない。「無責任ではないですか」。小野さんが問いかけると、電話は切れた。
アスルは、飼い主の入院などで世話ができなくなった老犬を有料で預かる事業の傍ら、自治体の動物愛護センターで殺処分される予定の老犬を無料で引き取る「みとりボランティア」に取り組む。活動を知った高齢者から「うちの犬もタダでみとって」と相談が相次いでいるという。
2013年施行の改正動物愛護管理法では、飼い主が最期まで世話する「終生飼養」の責務が明記され、自治体は高齢や病気の犬の引き取りを拒めるようになった。「高齢による引き取りはしない」と宣言する自治体もある。センターから殺処分される犬を引き取って飼い主を探す民間の愛護団体も、市民からの直接の持ち込みは断る場合が多いという。
そんな中、近年は有料の老犬ホームが増えている。環境省によると、13年の20施設から19年には177施設に増加。料金は介護の程度で異なるが、年間40万~50万円が多い。ある老犬ホーム経営者は「多くの施設は利用者を増やすため料金を最大限安くしている。無償のみとりを求める相談も来るが、採算が取れず、とてもできない」と明かす。
アスルも、みとるため犬を個人から直接引き受けることはない。みとりには1頭で数百万円かかる場合もある。老犬ホーム事業の収益や寄付金をボランティア活動に充てると経営は常にギリギリで、個人の依頼にまで応えきれない。
小野さんは「(犬の平均寿命とされる)15年後の生活や経済状況から逆算し、飼育が可能かどうかを慎重に考えるべきだ」と指摘する。飼育以外にも犬に関わる方法はある。散歩ボランティアや保護された犬の一時預かりなどは人手が求められている。「一時の『かわいい』『さみしい』という感情だけでなく、長い目でみてできることを見つけてほしい」と話す。
飼育されている犬の高齢化が進んでいる。一般社団法人「ペットフード協会」(東京・千代田)の19年の調査では、13歳以上の老いた犬の割合は4年連続で増えて18.2%。15年より2.6ポイント増加した。今後、犬を飼う意向がある人は、20~60代で同年より減少する一方、70代は横ばいで16.4%だった。
東部動物愛護管理センター(福岡市)に18年度に持ち込まれた犬のうち、10歳以上は7割を占めた。飼い主は70歳以上が6割に上り、「定年後にさみしくて犬を飼い、10年ほどで飼えなくなる人が多い」(吉柳善弘所長)という。
一般社団法人「アニマル・リテラシー総研」(東京都清瀬市)の山崎恵子代表理事は「飼い続けるための支援が必要だ」と指摘。獣医師が老犬介護の負担を軽くできるノウハウを発信するなど、社会全体でサービスを広げることを求めた。