給料ファクタリングご用心 狙われる「前借り感覚」

給与を事実上の担保として資金を提供し、手数料を要求する「給料ファクタリング」の被害相談が相次いでいる。"融資"を持ちかけるSNS(交流サイト)投稿などを見て給料の前借り感覚で利用するケースが目立つ。金銭の貸し借りではないため利息制限はないが、金利換算では法外な手数料がかかるケースも多く、弁護士などが注意を呼びかけている。
「SNSで見つけて気軽な気持ちで申し込んだら、すぐに回らなくなった」。パチンコにはまり、約1年前から消費者金融で金を借りるようになった鹿児島市の男性会社員(24)は振り返る。信用情報機関のブラックリストに載り、借り入れに制限がかかるようになっていた今年2月、SNSで見つけたのが「最短5分で融資」といった業者の書き込みだった。
業者に住所と会社名、月給、支給日などを送ると、その日に10万円が口座に振り込まれた。業者が提示した融資条件は約1カ月後に手数料を含む15万円の返済で、2~3カ月で首が回らなくなり、弁護士のもとに駆け込んだ。手数料を金利に換算すると年率600%。利息制限法が定める上限(最大20%)を大幅に超えていた。
消費者金融に詳しい小林孝志弁護士によると、ファクタリングは中小企業などが売掛債権を売却し、当座の資金を調達する手法。これを個人の賃金に当てはめたのが給料ファクタリングだ。現金がすぐに振り込まれるが、高額な手数料を請求される事例が多い。小林弁護士は「金利と異なり、手数料は法律で規制されていない。法の抜け穴をついた悪質な行為だ」と訴える。

業界の自主規制機関である一般社団法人「日本ファクタリング業協会」(東京・中央)によると、給料ファクタリングを巡る相談は5月ごろから増え始め、10月からの約2カ月間で200件程度が寄せられた。
問題に詳しい別の弁護士によると、返済が滞った女性会社員のケースでは、自宅に3人の男が訪れ「払わなければ勤務先に連絡する」と脅されたという。女性は6万円を借りて1カ月後に13万円を返す生活を半年続けた後、自己破産した。
同協会の吉野利夫代表理事は「これまでは中小企業が持つ取引先への売掛債権を狙った悪質業者が目立っていたが、企業向けより少額のため回収しやすく、トラブルになっても弁護士や警察が対応に消極的な点に目をつけたようだ」とみる。
そもそも労働基準法は給与について原則直接支払いと定めており、債権譲渡された第三者への支払いを禁じている。雇用契約時の書面で給与債権の譲渡禁止を明記する会社もある。ただ、業者の大半は給与を支払う会社側に取り立てることはなく、給与を譲渡した事実が表に出ない例が多い。
仮にファクタリング業者への給与の譲渡が明らかになれば労基法違反に問われるのは会社側だ。また契約上は金銭の貸し借りに当たらないため貸金業法や利息制限法、出資法にも抵触しない。
小林弁護士は「まずは行政処分をできる仕組みをつくるべきだ」と指摘。消費者には「生活の命綱とも言える賃金を削るのは非常に危険だ。目先の利益にとらわれず、利用に慎重になってほしい」と話す。
東京弁護士会などは12月10日午前10時~午後4時、ファクタリングに関する無料電話相談電話03・3597・5502を実施する。
ファクタリングは企業が売掛債権を担保に資金調達する手法を指す言葉だ。米国で1900年ごろに本格的に運用が始まり、高度経済成長を支えたといわれる。日本でも70年代に登場し、インターネットや電子決済が普及した2000年代から徐々に拡大し始めた。
だが近年は法律による利息制限を受けないことから貸金業者がファクタリング業に転じる例が目立ち、手数料名目で法外な高金利を設定する悪質な業者も目立つ。
売掛債権などの流動資産による資金調達を活性化するため、来年4月には民法の債権譲渡に関する条項が「当事者が債権の譲渡を禁止・制限する旨の意思表示をしていても効力を妨げられない」と改正される。専門家からは被害の拡大を懸念する声が上がっている。