米財政赤字、年1兆ドル突破へ 歳出拡大合意
【ワシントン=河浪武史】トランプ米大統領と与野党の議会指導部は22日、連邦政府の債務上限の引き上げと、2年間で歳出を3200億ドル(約34兆円)増やす予算の大枠で合意した。米国債の債務不履行(デフォルト)や「財政の崖」による目先の混乱は回避したが、新規国債の大増発は避けられない。財政赤字が年1兆ドルを突破するのも確実で、金融資本市場にゆがみをもたらす可能性もある。
米政権と議会指導部が合意したのは、2011年に10年間分の歳出の上限を定めた「予算管理法」の修正だ。国防費や公共事業費など20会計年度(19年10月~20年9月)の「裁量的経費」の歳出額を1兆3700億ドルに引き上げる。21年度も政府支出を大幅に積み増し、2年間で歳出上限を3200億ドル引き上げる見込みだ。
予算管理法は08年の金融危機後に膨らんだ財政赤字を減らす狙いで制定された。ただ、ホワイトハウスと議会は米景気の悪化を避けるため、2年ごとに同法を修正して事実上骨抜きにしてきた。トランプ政権下では18~19年度も歳出上限を2年で合計3000億ドル分引き上げたが、20年度以降は上乗せ幅がさらに大きくなる。
政権と議会が巨額の歳出拡大で歩み寄ったのは、20年の大統領選・連邦議会選を控え、与野党とも目先の歳出拡大を優先したためだ。共和党は保守派が重視する国防費の上積みを要求。弱者対策を重視する民主党も、雇用増につながる公共事業費や教育費など非国防費の大幅な増額を求めて争った。
米景気は17年末に成立した大型減税の効果が徐々に薄れ、貿易戦争の影響もあって減速懸念がにじんでいる。今回の与野党合意では、連邦政府の借入限度額を定めた「債務上限」も2年間にわたって引き上げることを決定した。市場が懸念していた米国債の債務不履行リスクはひとまず遠のいた。
連邦政府の歳出も予算管理法を厳格に適用すれば20年度に前年度比1割ほど減る可能性があったが、歳出の上限を引き上げれば、急激な歳出減による「財政の崖」も回避できる。ホワイトハウスと議会指導部の合意は政府予算を巡る混乱による景気悪化リスクをなくし、当面の実体経済や金融市場にはプラス材料となる。
もっとも、中長期的には財政悪化が強く懸念されそうだ。連邦議会は17年末に10年間で1.5兆ドルという大型減税を決めたばかりだ。米議会予算局(CBO)は20年の財政赤字を9000億ドル程度と見込んできたが、歳出の大幅積み増しで1兆ドルを突破しそうだ。08年の金融危機直後を除けば財政赤字が1兆ドルを超えたことはなく、景気拡大期にこれだけ財政が悪化するのは極めて異例だ。
連邦政府が18年度に市場で調達した財政資金は1兆ドルを突破。政府公認のプライマリーディーラーによる4月時点の予測では19年度も9380億ドル、20年度は1兆970億ドルと高水準で推移し、米国債の大増発は避けられない状態だ。
トランプ大統領は22日、ツイッターで「米連邦準備理事会(FRB)は政策運営にひどく失敗した。2度と間違えるな!」と主張し、改めて大幅な利下げを要求した。FRBは7月末の会合で利下げを決定する見込みで、米10年物国債利回りは18年秋時点の3.2%から2.0%へと大きく低下した。低金利政策は政府の利払い負担を抑えることにもなり、財政再建機運を大きくそぐ要因ともなっている。
米連邦政府の債務残高は22兆ドルに達し、CBOは5月時点で今後10年間の財政赤字の累積が9兆ドルを超すと試算していた。低金利にもかかわらず利払い費は19年度時点で3900億ドルと主要国で突出して重い。
トランプ氏は「予算の超党派合意は偉大な米軍の勝利だ」と国防費の増額を誇った。ただ、トランプ政権がまとめた予算教書によると、連邦政府の利払い費は27年度には7800億ドルに達し、国防費すら上回る異例の規模になる。財政悪化は将来の米国の国力をむしばむリスクもある。
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