「日本製鉄」が船出 新興国を現地化で開拓
橋本英二社長インタビュー
新日鉄住金は1日付で日本製鉄に社名を変更し、橋本英二氏を社長とする新体制が発足する。旧新日本製鉄と旧住友金属工業の統合から約6年半。生産設備の集約などで数千億円規模の収益改善効果を確保したが、中国勢の台頭や保護主義の先鋭化という逆風も強まっている。厳しい環境の中で生き残るためには、成長する新興国で現地に溶け込み、市場を開拓する必要がある。人口増加で成長が見込めるインドがその試金石となる。

「インサイダーとしてやるしかない。千載一遇のチャンスだ」
新体制がスタートした日本製鉄。最重要案件となるのが投資額3000億円超と最大になるインドの鉄鋼大手エッサール・スチールの買収だ。橋本社長は3月、就任を前にした日本経済新聞社などの取材にこう語った。欧州アルセロール・ミタルとの共同買収で、現地裁判所の手続きを待つ。
旧新日鉄が1990年代に海外展開を本格化した主な目的は、日系自動車メーカーなどに高品質な鋼材を供給すること。現地で加工する拠点向けに輸出していた。いわばアウトサイダーだ。
一方、エッサールは鉄鉱石を溶かす高炉から鋼材製品までの一貫製鉄所で、粗鋼生産能力は公称で年1000万トン。君津製鉄所(千葉県君津市)など国内主力製鉄所に匹敵する規模で、これまで海外では積極的に取り組んでいなかった建設向けなどの汎用鋼も扱う。
汎用鋼の単価は低いが、人口が増加する東南アジアやインドなどで需要が見込める。ただ建設向けなどの鋼材は政財界に根を下ろす地場企業との競争となり、現地化が欠かせない。
「保護主義を含めた国産化の流れは一過性ではない。もともと鉄は巨大なローカル産業だ」
インサイダー化が求められるもう一つの背景が、世界で広がる保護主義だ。インドやブラジルなどはもともと閉鎖的な市場だ。米国もトランプ政権が鉄鋼製品に追加関税をかけた。需要増を背景に東南アジアなどでも国産化の機運が高まれば、日本からの輸出が難しくなるリスクもある。

日本製鉄は生産する鋼材の4割程度を輸出する。新興国で現地化を進めながら、日本の生産基盤をどう維持するかが課題になる。輸出が大幅に減れば、国内生産の見直しは必然的に起こると橋本氏はみている。
「中国はますます厳しい競争相手になる。データを集めて技術を高めてくる。実力で日本に迫っている」
世界に挑む日本製鉄が競うことになる相手の一つが中国勢だ。世界の粗鋼生産の半分を占める中国では国主導で再編が進み、16年に誕生した宝武鋼鉄集団は、国内4位の鞍鋼集団とのさらなる統合観測がある。実現すれば、粗鋼生産量が年間1億トン超と日本製鉄の4820万トン(19年3月期見込み)の2倍超。中国の鉄鋼業の海外進出は少ないが、再編で体力を蓄えれば投資余地は高まる。
かつて買収の危機に身構えた相手、アルセロール・ミタルは現地化で先行する。既存の鉄鋼企業を買って規模を拡大した経緯もあり、欧米に加え、南アフリカやメキシコなどに高炉を核にした一貫製鉄所を構える。日本製鉄の海外高炉は、06年に持ち分法適用会社としたウジミナスがあるブラジルに限られる。
1970年に旧富士製鉄と旧八幡製鉄が合併した新日鉄は製造業が海外に進出し、構造改革に追われた。12年に誕生した新日鉄住金は、生産設備の集約に取り組む一方、日新製鋼や山陽特殊製鋼、スウェーデンのオバコなどを傘下に収め、攻めの姿勢もみせた。
だが業績を見ると、実質的な統合初年度の14年3月期の連結売上高は5兆5161億円。18年3月期は5兆6686億円と横ばい。営業利益は2983億円から1823億円へと大幅に減った。粗鋼生産量当たりの経常利益でも、効率化が進んだ国内2位のJFEスチールに後れを取る。橋本氏は「政府間で解決済みのテーマ」と話すが、韓国の徴用工訴訟問題といった火種もある。
社名変更で「日本」を掲げたのは「世界で成長する意味を込めた」(橋本氏)から。その実現に向けた課題は多い。(川上梓)