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「3カ月で職人に」 元ウィルコム喜久川氏、次の挑戦

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第二電電(DDI)を経てPHSのウィルコムやリクシル傘下のK-ENGINEの社長を歴任した喜久川政樹氏(55)が今月から一風変わった職人教育事業を始める。受講期間はたったの3カ月。当初のカリキュラムは「アプリ開発」と「外壁工事」だ。一見、まったく関係がなく見える分野だが、何をしようとしているのか、狙いを聞いた。

なぜ「アプリ」と「外壁」

――このほど、あらたに設立した職業人大学「プロカレ」の学長に就任し、12月12日から授業が始まりますが、きっかけはなんだったのですか。

はい。私の知人の経営者が寿司職人を短期育成する学校のフランチャイズ権を取得しました。この寿司教室を見て、「職人の短期育成」というコンセプトが他業種でも実現可能だと思ったのです。

この経営者と共同運営する形で今回新しい試みとして「スマートフォンアプリの製作者」と「外壁工事職人」の2講座をスタートさせます。

――なぜこの2分野なんでしょう。

私がかつてウィルコムでスマートフォンを開発したり、K-ENGINEで住宅設備機器の流通に携わったことも関係していますが、この2分野は「旺盛な需要があるのに、その作り手が圧倒的に、かつ将来的にも不足している」という共通点があります。

使いづらい企業アプリ

まずアプリですが、いま企業の間では自社ホームページをパソコン版からスマホ版に移行させようとする需要がかなり高まっています。2020年以降、この需要は爆発的に大きくなっていくと言われています。ただ、その作り手が不足しているのです。

――企業のHPはだいたいが使いづらいですね。

ホームページとアプリは、機能がまったくちがいます。ホームページは訪れるお客を待つ、あくまでもパンフレット的なものでした。アプリはそうではなく、ユーザーのスマホの中にインストールされ、さまざまな通知をプッシュすることで能動的なマーケティングが可能です。

ただ、ホームページのアプリ化を大手の開発会社に頼むと数千万円の費用がかかります。これは既存のシステムエンジニア(SE)が手がけているからです。

パートナー企業から講師

――アプリ開発はだれが教えるのですか。

講座ごとに提携するパートナー企業があり、そこから講師を派遣してもらいます。ホームページのアプリ化を手がけるアプリクッキング(東京・中央)です。実は、これまでのアプリが使い勝手が悪かったのは、UI(ユーザーインターフェース=操作性)とUX(ユーザーエクスペリエンス=得られる感覚)をおろそかにしていたからです。同社はこの分野を重要視しています。

――プログラムを打ったりなどの難しい作業なのではないですか。3カ月で可能なのでしょうか。

そういう作業ではありません。すでに用意されたプラットフォームとテンプレートを使って、視覚的・直感的につくることができる作業です。1日2コマ程度のWEB講義と、月1回の座学で、3カ月で習得できます。受講費は30万円です。

実はこうした部分を作り込む技術者が足りないのです。これまでにホームページにUI・UXが欠けていたのは、エンジニアにユーザー目線が欠けていて、供給側の目線でつくっていたからでしょう。アプリクッキング社に来る顧客からの問い合わせの3割は「大手に数千万円支払ってアプリにしたのに、全然使われない」という相談だそうです。

「アプリ」月数十万の収入も可能

――受講者には、受講後すぐに仕事が来るのでしょうか。

数カ月で元がとれるようになると考えています。受講者は主婦でも、サイドビジネスでもよく、どこにいてもWEBで受注・納品ができます。アプリ制作は約10万円で顧客企業から請け負いますが、その半分程度が報酬。その後、月1万~2万円の運用代行の仕事もあわせれば月数十万円の収入が可能です。

実はアプリ開発は女性の方が向いているという声もあるんです。女性は、自らが使う経験を重要視するため、入らない機能はどんどん削ります。結果良いアプリができる。男性は「これもいる、あれもいる」と機能を加えていってしまい、よくあるテレビのリモコンのような使いづらいものになってしまうのだそうです。

――それにしても「職人」を3カ月で、というのは大胆ですね。

そこが重要なところです。どんな分野のどんな職人でもいいわけではありません。短期間で職人が育成できる技術革新があり、なおかつ需要が旺盛で人手不足が起きているところ、そしてそれが将来にわたって続くと思われる分野。プロカレは私やスタッフのビジネス経験から、そういった分野を探す「目利き」として働いて講座を広げていき、人材を供給して社会のひずみを整えたいと考えています。

技術革新があり、かつ人手不足

――「外壁」も、その条件にはいりますか。

はい。住宅業界は今後は新設よりもリフォームが成長する市場で年間約6兆円の工事が発生しています。そのうち約6600億円が外壁等です。一方、リフォームを手がけるのは住宅会社や工務店ですが、ほとんどが地域密着の中小企業です。もちろんそれぞれに協力会社があり職人を確保していますが、高齢化もあり圧倒的に人手不足に陥っています。

――外壁というと「左官作業」がイメージされ、より技術の習得が難しい印象があります。

そこにも技術革新があります。アルミサイディングという新しい外壁素材がここ10年ほどで安価に調達できるようになっています。ウレタン樹脂のボードの上に薄いアルミが張ってあり、断熱・防音ともに優れている上に軽量で作業が簡単です。

作業でも汚れることがなく、女性でも施工が可能です。さらに水回りなどとちがって特別な資格もいりません。将来的にもリプレイスの需要が見込めます。

「外壁」熟練すれば月100万円も

――こちらはWEB講習とはいかないですね。

はい。やはりパートナー企業で、アルミサイディングの施工を手がけているスマイルタイム(名古屋市)で実地講習を受けます。週4~5日、朝から夕方までみっちり実地講習を受け、3カ月でものになります。受講費は60万円です。

この技術を身につけると、1工事あたり30万~50万円程度の受注収入が得られます。月に1~2工事を処理することが可能なので、熟練すれば月収100万円も夢ではありません。さらに個人事業主として経費を計上できるわけですから、サラリーマンの月収100万円とは価値がちがいます。

――講習の応募状況は?

はい。第1期の募集は締め切っておりかなりの手応えを感じています。WEB講習ができるアプリマイスターでは新潟の山間部から21歳の男性に応募していただきました。働き方改革にも通じる一歩としてうれしく感じています。アプリマイスター講座は12日から、外壁マイスターは17日以降、スタートします。どちらの講座も年明けから第2期の募集も始めます。

学長、経営者、一担当者

――今後はどんな講座が増えていくのでしょう。

それはまだ企業秘密ですが、さきほど申し上げたとおり、「技術革新により短期の人材育成が可能で、かつ需要が旺盛で人手不足で困っている方々が多く、かつ将来的にも安定した成長が見込める分野」というのがキーワードですね。

――喜久川さんは学長として、あるいは経営者として携わるのですか。

学長であり経営者であり、一担当者でもあります(笑)。この事業に関わるすべての人が喜ぶことができて、社会のミスマッチを修正することができればと思っています。

(聞き手は小板橋太郎)

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