ソフトバンクが分離料金 官の風圧、苦肉の透明化策
ソフトバンクは29日、新しい携帯料金プランを発表した。携帯電話端末の割引きをしない代わりに通信料金を安くする。菅義偉官房長官の「携帯料金は4割程度下げられる余地がある」との発言が注目される中で、ソフトバンクが出した答えは、携帯端末の代金と通信料金を分離するプランだ。これはソフトバンクが10年間逃げ続けてきた回答でもある。
「携帯官製不況」から10年
ソフトバンクが同日発表したプランは、毎月のデータ通信量を50ギガ(ギガは10億)バイト利用する場合、固定通信とのセット割引といった各種の割引を除いて月7480円から利用できる。従来プランから約2割の値下げとなる。「今回、端末料金と通信料金を分離するという思い切った形を取った。両者を合算した場合、これまでと同等かより安くなる」。新料金発表会に登壇したソフトバンクの榛葉淳副社長はこのように強調した。50ギガバイトプランの場合、YouTubeなど対象となる動画サービスやSNSが使い放題となる機能も加えた。
端末料金と通信料金を分離する――。つまり、毎月の通信料金に含まれることが多かった端末の代金を切り離すことで料金を透明化する分離プランは、昨年7月にKDDIが導入した。「auピタットプラン」「auフラットプラン」の特徴は、従来していた月々の端末代金を割引きをしないかわりに、通信料金を最大3割程度値下げするものだ。
NTTドコモも昨年夏に端末割引をしない代わりに通信料金を毎月1500円割り引く割安プランを投入。9月1日からiPhoneの旧機種も選べるようにプランを拡充している。ソフトバンクは今回、最後に追随する形になる。
実は、こうした分離料金プランは、10年前にも導入されたことがある。当時携帯大手は1台あたり平均4万円程度の販売奨励金を販売店に出して、店頭で割引き販売させた。こうした販売奨励金はユーザーが毎月支払う通信料金に上乗せして回収していた。
2007年9月、総務省の有識者会議「モバイルビジネス研究会」は端末価格と通信料金の区分を明確化した、いわゆる分離プランの導入を要請した。端末を長く使い続ける利用者と、頻繁に切り替える利用者が販売奨励金分を同様に負担するのは不公平だからだ。結果、それまで「1円」などで販売されていた端末が一斉に4万~5万円になり、販売台数の落ち込みは最大30%にも達した。
裏をかいたiPhone
これを機に撤退する携帯電話メーカーなども増え、「官製不況」と呼ばれる中、制度の裏をかいたのがソフトバンクだった。2008年にiPhoneの独占販売を開始。その際に取った販売手法が端末の割賦販売だ。端末を24回の分割払いとし、その縛り期間に応じて料金を割り引くという手法で、総務省の要請を回避。他の端末が5万円前後するなか、iPhoneは3万円を切る実質価格で販売するなどして、他社から多くの利用者を奪うことになった。
その後iPhoneの独占と割賦販売でソフトバンクは急成長した。NTTドコモやKDDIに匹敵する3強の一角に浮上。携帯事業の躍進をテコに、米スプリントや英アーム・ホールディングスの買収に突き進むことになる。
だがその後、KDDIやドコモもiPhoneに参入し、料金やサービスは横並びになる。その人気の前に分離プランは脇に追いやられ、「実質0円」販売が復活するなど、端末割引の魅力で顧客を奪いあうようになった。
2015年9月、安倍晋三首相は携帯料金の家計への負担が大きいとして料金引き下げを検討するように指示した。異例とも言える政府の指示に対し、監督官庁である総務省が出した答えの一つが、格安スマホの促進だった。
携帯大手の料金プランと比べて大幅に安い格安スマホが人気を集め、携帯大手からの顧客流出が無視できない規模へと拡大しつつあった。KDDIが先陣を切って分離プランによる通信料値下げに踏み切ったのは、格安スマホへの顧客流出を食い止めるためでもあった。
利用者負担どう軽減?
ソフトバンクが10年ぶりに掲げた分離料金という「白旗」は、同社の競争の源泉だったiPhoneの効力が消え、政府の再三の値下げ要請に抵抗するために、これまで聖域であった端末割引きを崩したことを意味している。榛葉副社長は「利用者の声を聞くなかで、分離プランも一つの選択肢としてあるべきという結論に達した」と語る。だが端末料金の負担増をどのように解消するのかが課題だ。
KDDIは端末正価販売による消費者の負担を抑える苦肉の策として、端末価格を4年間の分割払いにした。ソフトバンクも同様のプランを投入している。だが、これは一方で「4年縛り」と呼ばれ、「一度契約してしまうと他社への乗り換えが困難になる」(公正取引委員会)といった新たな問題も指摘されている。
(堀越功)