「マイクロソフトの変身」を証明した8200億円買収
米マイクロソフトは4日、ソフトウエア開発者向けサイトを運営する米ギットハブを75億ドル(約8200億円)で買収すると発表した。マイクロソフトにとって過去3番目に大きいM&A(合併・買収)となるが、サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)による改革を象徴する意味では過去の案件をしのぐインパクトを社内外に与えている。

バルマー氏が敵視していたもの
ギットハブは2008年の設立で、同社が運営するサイトはソースコードを無償公開し自由に改良できる「オープンソースソフトウエア」の開発や普及の基盤となってきた。スタートアップから大企業まで様々な規模の企業が利用しており、世界の利用者数は2800万人を超えるという。
ギットハブの巨額買収が直ちにMSの収益に貢献するとの見方は少ない。ただ、同社のパソコン向け基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」の中核部分も、ゆくゆくは「リナックス」などのオープンソースを採用するとの噂もささやかれている。
同社はこれまでソフトや技術者を囲い込み、独自OSの対価を収益源としてきたが、その方針を切り替えオープンソースの知見を蓄える狙いがありそうだ。こうした目的が約8200億円という金額に見合わないという声がある一方で、同社の長期的な戦略に合致するとの期待感から、4日の米株式市場でMS株は上場来高値を更新した。
マイクロソフトの前CEOであるスティーブ・バルマー氏は過去にオープンソースソフトの代表格であるOS「リナックス」を敵視する発言をしており、数年前までのマイクロソフトはギットハブとは対極に位置する企業だとみなされていた。ただ、今回の買収はそうしたイメージを刷新するものになりそうだ。
4日に電話会見した現CEOのナデラ氏はバルマー氏の過去の発言を打ち消すように「我々はオープンソース開発者が大好きだ」と強調。「マイクロソフトはギットハブ上で最も活動的な組織だ」とも述べ、同氏が就任した14年以降、社内でオープンソースの取り組みを奨励している実態を説明した。
例えばあらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及を見据えた情報保護の基盤サービス「アジュール・スフィア」では、マイコンを制御するOSにリナックスの技術を採用した。急激な自前主義からの脱却ぶりに、マイクロソフト社内からも「昔だったら考えられなかったことだ」との声が漏れる。
無償ビジネスモデル、どう収益化
「ソフトウエアの未来に向けたビジョンや開発者を最優先するマイクロソフトの取り組みは、我々の哲学と合致するものだ」。4日の電話会見に同席したギットハブの共同創業者でCEOのクリス・ワンストラス氏はMSへの強い信頼感を口にした。かつて「覇権主義的」と皮肉られることもあったマイクロソフトの企業文化を一変させたナデラ改革が引き寄せたM&Aともいえる。
ギットハブの買収には株式交換を使い、米国や欧州の独禁当局の認可を前提に18年中に手続きを完了する予定だ。マイクロソフトは買収後もギットハブの利用者が米アマゾンウェブサービスや米グーグルなどライバルのクラウドサービスも利用できるようにするなど、サービスの中立性は維持するという。
ビッグデータの高速分散処理や自動運転技術開発などの分野でもオープンソースの活用は広がっており、ギットハブはなお高い成長力を維持している。ただ、無償を基本とするビジネスモデルのために、サービスの収益化には苦戦していたもよう。既存の利用者を満足させながら、いかに収益性を高めていくか。ここでもナデラ氏の手腕が問われることになりそうだ。
(シリコンバレー=白石武志)
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