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FC今治、JFL昇格 成長促した1年目の挫折

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私がオーナーに就任して2年目の今季、FC今治(愛媛)は全国地域チャンピオンズリーグ(以下地域CL)を勝ち抜いて、来季は日本フットボールリーグ(JFL)で戦う資格を手にした。JFLはJリーグ3部(J3)の真下に位置する全国リーグ。オーナー冥利に尽きるとしか言いようがない喜びと同時に、Jリーグへの足がかりとなる舞台で戦うことに身の引き締まる思いでいる。

昨季の悔しさ胸に地域CLに照準

1試合を残して四国リーグを連覇したのが9月25日。それからは10月3、4日と第71回国民体育大会(岩手)に愛媛県代表として出て、準々決勝で新潟県にPK戦で敗れた。同じ月に開催された全国社会人選手権(以下全社)にも出場し、こちらも2回戦でジョイフル本田つくばFC(茨城)にPK戦で敗れた。それからは四国の覇者として全国9地域の王者が一堂に会する地域CLに照準を合わせて準備を重ねた。この大会で原則2位以上になるとJFLに昇格できる。昨季の今治はここで分厚い壁に跳ね返され、本当に悔しい思いをした。

地域CLの出場チーム数は12。地域王者の数は9チームだが、それに全社の1位、2位、3位チームがワイルドカード的な扱いを受けて出場できる。今年は岡山県の三菱水島、三重県勢のヴィアティン三重、鈴鹿アンリミテッドが「全社枠」で参戦してきた。

大会は11月11日から13日までの1次ラウンドと25日から27日までの決勝ラウンドの2段階方式。まず12チームを4チームずつ3組に分けてリーグ戦の1次ラウンドを行い、各組の1位と2位の中で最上位の成績を収めた1チームの計4チームが決勝ラウンドに進める。

決勝ラウンド、3戦全勝で昇格果たす

今治は1次ラウンドでノルブリッツ北海道(北海道代表)に3-0、SRC広島(中国代表)に8-0で勝ったものの、三重に0-3で敗れて首位の座を奪われた。ひやりとしたが、2位の中で勝ち点6で並んだアルティスタ東御(北信越代表・長野)を得失点差で上回り、何とか決勝ラウンドに進むことができた。

1次ラウンドのつまずきを糧にした決勝ラウンドは非常に引き締まった試合をしてくれた。鈴鹿に2-1で勝った後、1次で敗れた三重に3-0で雪辱。三菱水島にも3-0で勝ち、3戦全勝でJFL昇格を飾れた。

3日連続で試合がある大会を勝ち抜くために、今季は公式戦の翌日にも練習試合を組んで、連戦に耐えうる力をずっと養ってきた。ずばぬけたストライカーがいるわけではないので数的優位をつくるトレーニングをベースにする一方、泥臭くこぼれ球を拾う執着心、勝利への執念の大切さも植えつけてきた。今季から指揮を執る吉武博文監督がいいチームをつくってくれ、スタッフと選手が一致団結して勝ち取った昇格だった。

JFL昇格を果たした3日間の戦いを振り返ると、全国リーグへの関門をどうしても乗り越えたいがために今回はかなり勝負に徹した面はある。が、我々が目指す「世界で勝負できるサッカー」の片りんも幾つか出せたと思っている。今年は「ここが勝負どころ」と思い、チーフ・メソッド・オフィサー(CMO)に就いてベンチ入りする試合もあったが、そういうこともおそらくこれが最後になるだろう。

選手は自分の仕事とクラブの成長を考えた

今治から夜通しバスを走らせて、千葉県市原のゼットエーオリプリスタジアムまで駆けつけてくれたサポーターに昇格をプレゼントできたのは、やはり、うれしかった。昇格は、今治や東予地域でクラブを応援してくれる人たち、スポンサーの皆様方、行政関係者のご支援のたまものだと思っている。

今治には天然芝の練習場がないのだが、ここにきて、西条や新居浜の方から「ここを使ってもいいよ」と天然芝の練習場を貸してくれることが増えた。どうやらそれは、うちの社員たちが地道に西条や新居浜のフットサル大会やソフトボール大会に顔を出したり、コーチたちが無償で子供の巡回指導や指導者講習会を開いたりしていることと関係があるようだ。クラブで働く一人ひとりがどうやったら自分の仕事をクラブの成長につなげられるかを真摯に考え、取り組んでくれた成果だろう。チームだけでなくクラブとしての成長も感じられる1年になった。

そんなことを思うと昨年、地域CLで敗れたことは無駄ではなかった気もしてくる。もともと、この難関をくぐり抜けるには2年はかかると見越していたが、オーナー就任1年目でさっとJFLに昇格していたら落下傘を着けてよそから降りてきたクラブのイメージが濃くなっていたと思う。1年目に挫折したことでサポーターやスポンサー、行政の関係者との昇格に向けた連帯感やエネルギーは逆に強まったように思う。

絶対に負けられないという強い思い

一方で、2年計画の2年目の今年はどうしても昇格を果たしたかった。5千人収容の新スタジアム建設は既に着工しており、その先には1万5千人収容のスマートスタジアム建設の構想もある。JFL昇格を前提にこれまでのスポンサーには契約を更新していただき、新たなスポンサーも獲得できていた。それだけに絶対に負けられないという思いは強く、決勝ラウンドが始まる前にはワールドカップ(W杯)予選に負けないくらいの闘志がふつふつとわき上がっていた。

来年から新しくスポンサーになってくれる企業に今治造船がある。頼もしい仲間ができるとうれしい半面、他のスポンサー企業に対してもそうなのだが、JFL程度の露出量ではお返しできるものがあまりに小さいと、内心忸怩(じくじ)たる思いもある。聞けば、同社は2000人ほどの外国人労働者を抱えているという。彼らに対してサッカー大会を開いて労務対策の一環にしてもらうとか、サッカークラブならではの提供できるメリットをリサーチして実行していけたらと考えている。

今治の交流人口をどんどん増やして、東予地域全体を活性化するアイデアが皆の間でいろいろと膨らむ中で、肝心のチームが四国リーグでもたもたしていたのでは話にならない。今回の昇格はそういう意味ではクラブの背中を良い方向にぐっと押してくれる大きなパワーになったというか、埋めるべき最後のピースを埋めてくれた気がしている。

ほっとする間なし、来季の体制を…

ほっとするのはつかの間で、これからはJFLを勝ち抜くために、経営面でも戦力補強の面でも環境整備にまい進しなければならない。現状をしっかり分析し、スタッフ、選手補強を含めて来季の体制を整えていかなければならない。JFLやJ3に長くとどまると、勤続疲労が蓄積して、知らず知らずのうちに上昇意欲を失っていくような気がしている。だから、できるだけ早く、上へ上へと駆け上っていきたいと思っている。

昇格のメリットとして「取れる選手」が変わってくるのはあるだろう。四国リーグだと戦う相手が弱い上に年間で14試合しかないから、即戦力の有力選手はなかなか来てくれない。他のチームの倍のカネを出すといっても難しい。いい選手ほど、このクラブは自分が伸びる場所だと思ってくれないと動いてくれない。

それで今までは指導者やスタジアムなどの環境整備に資金を多く使ってきた。今治に新卒の選手が多いのも即戦力の補強が難しかったからだ。JFLに昇格すれば、そのあたりの事情はかなり好転するはず。JFLで勝負できる陣容にしたいと思っている。

ところで、私にはJFL昇格を果たしたら声を大にして言いたいことがあった。果たす前だと「どうせ自分のクラブを勝たせたいために、そんなことを言っているのだろう」と取られるのが嫌で黙ってきたことが。

日程の過酷さはケガと隣り合わせ

何のことかというと、アマチュアとされる社会人の大会の日程の過酷さである。今大会も1次ラウンド、決勝ラウンドとも3日間で3試合の強行軍だった。

運動生理学的にいうと、3日間連続の試合は、エネルギーのもとであるグリコーゲンを回復させる前に次から次に試合がくることになる。瞬発系の力はどんどん落ち、血糖値も下がり、ふらふらになりながら判断も何もないサッカーをしてしまうことになる。それはそれで見ている側に精根尽き果てた的な感動をもたらすのかもしれないが、ケガ人が出ることは絶対に避けられない。

地域CLと銘打ちながら地域王者で決勝ラウンドに進めたのは四国代表の今治だけだった。残りは全社枠で"敗者復活"してきた三菱水島、三重、鈴鹿の3チーム。これには理由があると思っている。

全社で上位に来るのは各地域リーグで優勝を逃したチームばかりになる。後がない彼らは地域CL出場の最後の切符を5日間で5試合という過酷な全社で3位以内に入ってつかもうとする。その気迫たるや恐ろしいものがあるし、普段できない共同生活を5日間できることで団結心ができる。出場権をつかむと、その勢いのまま約1カ月半試合のない地域リーグのチャンピオンを圧倒してしまう。

各地域のチャンピオンはサッカーの質の高さでその座をつかんだはずなのだが、3日連続の試合が1週置いて2回ある地域CLでは、その質が全社組の勢いにのみ込まれる現象がややもすると起きてしまう。勝負の世界とはいえ、地域のチャンピオンがJFLに上がれない地域のチャンピオンズリーグとは何ぞや?という疑問はぬぐいされない。

選手の心身など守るため改善の道探る

全社も地域CLもアマチュアの大会だから休みが都合よく取れない、だから週末に日程が集中するのは仕方ないという反論がある。それならそれでいいが、全社枠を3つも用意する必要はないだろう。出場チーム数を12でキープしたいなら全社枠を減らし、関東や関西など登録の多い地域からの出場数を増やした方が理にかなっていると思う。

アマチュアの大会といっても今大会でいえば、企業チームは三菱水島だけで、ほかはクラブチームばかりである。公休は無理でも有休を取り、中1日の休みを取りながら試合をすることが不可能とはどうしても思えない。かつて過密日程に批判が集まった正月の高校選手権でも中1日の休養日を設けて試合をしている。

恥ずかしながら、私も今治のオーナーになるまではアマチュアの大会がこんな過酷な日程で行われているとは知らなかった。「こんなサッカーがいまだにあるのか」と驚いた。選手の心身と試合のクオリティーを守るために、改善の方途を探り続けたいと思っている。

(FC今治オーナー、サッカー元日本代表監督)

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