都内ベンチャー集積に異変 五反田、広さで人気
都内のベンチャー(VB)集積地に異変が起きている。1990年代後半の「ビットバレー」隆盛期から聖地として君臨する渋谷から分散し始めたのだ。理由は家賃の高騰と再開発。東京都渋谷区のオフィス仲介会社によると、ここ1~2年で坪当たりの賃料が月5000~1万円高くなった。再開発で賃料の安いオフィスビルが取り壊され、立ち退きを迫られるVBも出てきた。
広さ、近さ、住環境で支持
有力な移転先の1つが渋谷から山手線で3駅の五反田だ。飲食店口コミサイトのRetty(レッティ、東京・品川)やスマートフォンでドアの鍵を開閉する機器を開発するフォトシンス(同)など多くの有力VBが拠点を構える。
会計ソフトのfreee(フリー、同)は2014年6月に麻布十番から五反田に引っ越した。佐々木大輔・最高経営責任者(CEO)は「渋谷は家賃が高い。オフィスが狭く、駅からも遠くなる。それなら広くて駅近の五反田が良い」と話す。飲食店が充実し、従業員と食事をしやすい利点がある。風俗店やラブホテルも多いが、「今の若い人は気にしない」と笑う。
住環境の面でも優れる。五反田駅から延びる東急池上線沿線の家賃相場は東京23区内では比較的に安い。多くの従業員が電車で3分の戸越銀座に住んで電車や自転車で通勤する。従業員満足度はおおむね高いようだ。佐々木CEOは「200坪の広いオフィスが多い。資金調達に成功してこれから事業を拡大していくVBに向いている」と話す。
00年代前半に「ヒルズ族」で有名になった六本木も人気が根強い。グーグルやアップル、ヤフーなど大手IT企業がオフィスを構え、周辺にITベンチャーが集積する。
「ユーチューブ」専門タレント事務所のUUUM(ウーム、東京・港)は14年9月に原宿から六本木ヒルズに本社を移した。鎌田和樹CEOは「坪当たりの賃料が3~4倍に高くなったが、ヒルズに越して良かった」と強調する。最大の取引先であるグーグルも同じ六本木ヒルズにオフィスを構えているため、頻繁に打ち合わせができる。
採用面でも効果が出ている。移転後に求人広告を出したところ、応募人数が1000人と倍増した。取引先も大手企業が増えた。ヒルズブランドは健在なようだ。
2年で渋谷回帰
聖地の渋谷は起業のスタート地点として適している。安く入居できるコワーキングスペースが多く、20代前半の若い起業家がしのぎを削る。ピッチイベントやエンジニアの勉強会が頻繁に開かれ、VBで働く人たちの横のつながりが強い。14年春から渋谷に本社を構えるBASE(東京・渋谷)の鶴岡裕太CEOは「まずはコミュニティーに入ることが重要だ」と話す。
渋谷の一極集中から分散化が進む都内ベンチャーマップだが、オフィス仲介会社の代表は「2年後に(渋谷回帰が始まる)道玄坂ショックが起きる」と予想する。18年完成の旧東急プラザ跡地の複合ビルを皮切りに、27年までオフィスビルの開業が相次ぐからだ。複数のビルに入居する大手IT企業の移転が考えられ、玉突きで多くのVBの移転が起きそうだ。
(企業報道部 阿曽村雄太)
[日経産業新聞6月8日付]