ドコモ、iPhoneでも浮上せず 15年3月2割営業減益
iPhone(アイフォーン)をもってしても巨人の進撃はならなかった。NTTドコモは31日、2015年3月期の連結営業利益が前期比23%減の6300億円にとどまる見通しだと発表した。過去15年間で最も低く、初めて携帯電話大手3社でも最低となる。直接の原因は6月に導入した新料金プランの誤算だが、背景には環境変化に機敏に対応できない「電電公社」体質がある。
「下方修正を申し訳なく思う」。決算発表したドコモの加藤薫社長は厳しい表情で語った。4~9月期の売上高は前年同期比1%減の2兆1729億円、純利益は同14%減の2595億円にとどまった。15年3月期の営業利益は期初に7500億円を見込んでいたが、1200億円減と大幅に下回る見通しだ。
転出超止まらず
10月中旬。ドコモは親会社のNTTに決算の見通しを内々に伝えた。「今期の営業利益が6000億円程度になりそうだ」。NTT幹部は絶句。コスト削減の努力が足りないと突き返したという。
昨年秋に米アップルの人気スマートフォン(スマホ)iPhoneを導入、他社への契約者の転出の最大要因を解消し、今期はフルにiPhone効果が出るはずだった。しかし、目算は外れた。改善はしているものの、他社への転出超過も止まらない。
誤算の理由は国内通話の完全定額制を柱とする新プラン。加藤社長は減益の理由について「新プランの影響で大きく減収になった」と説明した。
無料通話アプリの台頭などで音声通話の利用は減少傾向が続く。定額制の導入で通話収入の減少に歯止めをかける狙いだったが、副作用が大きかった。
新プランではスマホの場合、月2700円で通話し放題になる。この額を超えるヘビーユーザーがこぞって新プランに移行する一方、通話の少ないユーザーがそっぽを向いた。ドコモ契約者の現在の月間平均通話料は割引制度の影響を加味すると1190円。実態としては新プランが値上げになる利用者が多い。
ドコモは8月末で旧プランの受け付けを中止し、機種変更でも新プランを事実上強制している。「ライトユーザーが取り込めず、離れるばかり」「旧プランなしでは戦えない」。営業の現場では悲鳴が上がっている。
ヘビーユーザー分の減収が先行、「iPhoneがなかったために他社に移った利用者に戻ってもらう」(加藤社長)計画も狂った。ドコモへの顧客流出を懸念していたKDDI(au)は31日、2年契約が終了したiPhone利用者の9割が同社の継続利用を選んだと発表、ドコモの巻き返しが軽微だったことを証明した。
実は、KDDI、ソフトバンクモバイルもドコモに追随して同様の定額制を導入している。だが、ソフトバンクは8月末としていた旧プランの受け付け終了を11月末に延期。ドコモの苦戦を目の当たりにして、「さらに延長する方向で検討している」(ソフトバンク幹部)。他社は顧客動向に合わせた対応でドコモの失速を尻目に快走を続ける。
まるで電電公社
「あまりにも商売の感覚が乏しすぎる」。あるNTT幹部は指摘する。かつては同じ批判を浴びたNTTだが、ここ数年は固定電話収入が急減。クラウドコンピューティングを中心とするサービス販売で「商売」に汗を流す。
ドコモは今回も大幅減益が見えていたにも関わらず、4~9月期の経費が前年同期比で5%も増えた。NTTからは「ドコモはまるで電電公社のよう」に見える。
iPhoneの導入では08年時点でもアップルと交渉を進めながらソフトバンクに先を越され、昨年は推奨するスマホメーカーを2社だけに絞る「ツートップ戦略」が振るわないなど失策が続く。「これまで圧倒的に強かったので、ぬるい」とNTT幹部は手厳しい。
ソフトバンクが携帯に参入した06年には55%の国内シェアを握ったドコモ。今は45%にまで低下し、圧倒的な強さも色あせてきた。
加藤社長は「営業利益ではビリになる。首位だった時の気持ちを払拭する」と宣言する。業界の盟主の座に安住する時は過ぎた。(奥平和行、篠崎健太)
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