インドで3ガス田開発 印リライアンスとBP
国内需要の1割生産
インド大手財閥のリライアンス・インダストリーズ(RIL)が天然ガスの大規模生産に乗り出す。英石油大手BPと組んで、3つの深海ガス田を開発する。投資額は今後3~5年間に約4000億ルピー(約6900億円)になる見込み。インドのガス需要の1割以上を生産する見込みだ。経済が好調なインドはエネルギー供給が需要に追いつかないのが課題だった。モディ政権のエネルギー自給率を高める政策もあり、ガスの供給増加で、経済成長を下支えする。
「3つの新しいプロジェクトで2022年のインドのガス需要の1割以上を賄える見通しだ」。ニューデリーで開かれた記者会見で、BPのボブ・ダドリー最高経営責任者(CEO)はガス田を共同開発する意義をこう強調した。
今回、両社が合意したのは、RILとBPが権益を持つベンガル湾の石油・天然ガス鉱区「KG-D6」の共同開発だ。権益の6割をRILが持つが、ガス田は深さ2000メートルにあり、開発には高い技術を必要とする。世界の深海で開発実績があるBPの技術とノウハウを開発に活用する。
第1弾の開発では日量1200万立方メートルが見込め、20年から生産を始める計画だ。残る2プロジェクトについては17年内にインド政府に計画を提出し、20~22年に生産に着手したい考え。3プロジェクト合計で日量3000万~3500万立方メートルを見込む。
両社は11年に提携。KG-D6の油田・ガス田の開発に延べ1000億ルピーを投資してきたが、今回の投資はその4倍の規模の大型開発となる。
BP統計によると、インドの天然ガス消費量は16年に約500億立方メートルと15年比10%増えた。経済成長に伴い、インドのガス需要は大きくなっているが、国内生産量の減少が足かせとなる形で、消費量も12年のピークの時(710億立方メートル)に比べると減少している。
インドでは増大するエネルギー需要を国内で賄いきれず、原油や天然ガス、石炭などの天然資源の輸入依存度が高いことが構造問題となっていた。このためモディ政権は減少傾向にある原油や天然ガスの国内生産を増やそうと、昨年に新鉱区の取得や採掘許可に関する制度改革に着手。企業の投資を呼び込んで開発を促そうとしている。
今回のBPとRILの大型投資決定もこうしたモディ政権の姿勢が背景にある。現在の液化天然ガス(LNG)の輸入価格で換算すると、3つの新たなプロジェクト合計で200億ドル(約2兆2000億円)分の輸入をインド国内で自給できることになるという。
インド統計局によると16年度の国内エネルギー消費量に対する輸入依存度は原油が85%、石炭が36%、天然ガスが34%に上る。政府はこれらの国内自給率を上げるとともに、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの普及にも力を入れる方針を示している。
加えて、両社は今回、ガス田開発以外にも提携を拡大することでも合意した。「従来の上流ビジネスに加え、下流ビジネスにも提携を広げ、インドのエネルギー産業で幅広い可能性を探る」(ダドリーCEO)。その一つが給油所の運営だ。
地元報道によると、RILは国内で給油所を運営し、今後給油所の数を増やす計画がある。一方、BPも国内で最大3500カ所の給油所を開設するという計画で政府から承認を得ており、両社は共同で拠点を拡充していく可能性がある。
RILはかつて幅広く給油所を運営していたが、08年の原油価格の高騰で多数を閉鎖した。インドでは国営企業が運営する給油所に対し、政府が補助金を出すため価格が抑えられるが、補助金のない民間企業は原油高で採算が悪化した。
RILが世界大手のBPと組んで、改めて小売ビジネスを強化すれば、国営企業にとって脅威となりそうだ。
また、RILのアンバニ会長兼社長は「石油・ガス田開発という上流ビジネスの強化に加え、両社の強みを生かして新事業でも協力したい」と話す。両社は電気自動車(EV)事業でも連携する方針だ。「車の電動化や低炭素ビジネスなどで協力していく」(アンバニ会長兼社長)という。CO2排出量取引や再生可能エネルギーなども視野にあるとみられる。
「今回の連携による事業モデルは海外展開も視野にある」とアンバニ氏は述べており、他の国でも同様の手法で事業を広げていく考えだ。
(ムンバイ=早川麗)
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