トルコ、軍の非主流派が決起か 大統領に不満 排除を察知
【ベイルート=岐部秀光】トルコ軍の一部はなぜ、このタイミングでクーデターを企てたのか。理由を読み解く鍵になるのが、8月に迫っていた軍の大佐クラス以上の人事を決定する「高等軍事評議会」の存在だ。
今年の評議会ではエルドアン大統領の盟友から政敵に転じた米国在住のイスラム教指導者、ギュレン師に近いとみられる軍幹部の排除が確実視されていた。
シンクタンク「ジャーマン・マーシャル・ファンド」の研究者でトルコの外交安保政策に詳しいオズギュル・ウンルヒサルジュクル氏は今回のクーデター未遂劇を「ギュレン系の軍幹部が力を失う前に権力奪取を試みた可能性が高い」と指摘する。
クーデターを試みた勢力は議会への爆撃や群衆への発砲など、従来の軍の行動規範からかけ離れた行動に出た。軍が一丸となった過去のクーデターとは異なり、非主流派による蜂起だったとの見方を裏付ける。
一方、軍トップの参謀総長を拘束し、国際空港を閉鎖。戦闘機やヘリコプターを確保するなど、作戦は包括的で周到に準備されていた。高位の軍幹部の関与がなければ実現は難しかったとの見方も根強い。
イスラムのカリフ制を敷く政教一致のオスマン帝国崩壊で建国したトルコは政教分離を国是としてきた。初代大統領のムスタファ・ケマルはカリフ制を廃し世俗主義を推し進めた。軍はそうした体制の守護者を自任してきた。しかし近年はエルドアン大統領率いる与党の公正発展党(AKP)がイスラム主義色の色濃い政策を打ち出していた。
軍の一部は不満を強めたが、エルドアン氏は欧州連合(EU)の外圧を使い意に沿わない軍幹部を追放し、軍の影響力を弱めてきた。
テロ対策でもエルドアン氏の対応に軍の不満がくすぶっていたもようだ。政府は少数民族クルド人の非合法武装組織クルド労働者党(PKK)に対する掃討作戦を進めている。しかし、PKKに対する強硬な対応が支持者を追い込み、かえって激しい報復テロを招いているとの説がある。掃討作戦にともなう兵士の犠牲も膨らんでいた。
エルドアン大統領の強権批判は軍以外にも広がる。2013年にはイスタンブールでエルドアン氏を批判する大規模なデモが発生した。その後、政府は与党の政策に批判的な人物への締め付けを強め、政府に批判的なメディアへの弾圧も強めた。エルドアン氏は5月には新憲法制定に慎重だったダウトオール首相を辞任表明に追い込んだ。
クーデターを阻止したことで、エルドアン大統領は軍の影響力を弱める方針をさらに進め、反政府勢力に対しても一段と強硬な対応をするとみられる。大統領権限を強化する新憲法制定の必要性を訴えるのは確実で、強権的な統治手法に一段と傾斜する可能性がある。