トルコ爆弾テロ、クルド組織犯行か 死者38人に
【イスタンブール=佐野彰洋】トルコの最大都市イスタンブール中心部で10日夜に起きた爆弾テロでクルトゥルムシュ副首相は11日、少数民族クルド人の非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)による犯行の可能性があるとの見方を示した。事件の死者数は警察官30人を含む38人に増加した。イスタンブールで大規模なテロが起きるのは6月以来。治安リスクへの懸念が増すことで経済の重荷となる可能性もある。
「はっきりとはしないが、矢はPKKを指している」。クルトゥルムシュ氏は11日のテレビ出演で事件の背後にPKKの存在があると述べた。ユルドゥルム首相も同日、「PKKの犯行にほとんど疑いがない」と指摘した。現時点では犯行声明は出ていないが、PKKは1980年代から政府に対する分離独立闘争を開始、軍や警察を狙ったテロを繰り返してきた。
2015年7月に両者の一時停戦が崩壊。政府はクルド人が多数暮らす南東部で激しい掃討作戦を展開している。これに対し、16年2、3月に首都アンカラで起きた爆弾テロなどでPKKの分派組織が犯行声明を出した。
今回のテロの現場は中心部のサッカースタジアム付近。2度の爆発はスタジアムでの試合終了から約2時間が経過し、観戦客が帰宅した段階で発生した。被害は現場の警備にあたっていた機動隊員に集中しており、治安当局に狙いを絞った犯行の可能性が指摘されている。
強権を深めるエルドアン政権はクルド人中心の野党・国民民主主義党(HDP)の共同党首を含む国会議員や地方の首長を「テロ捜査」の一環として相次ぎ逮捕しており、PKKの活動活発化が懸念されていた。
11日、ソイル内相は今回のテロの死者数が38人に達したと発表した。負傷者数は155人に上り、このうち14人が重体という。事件への関与が疑われるとして13人を拘束したことも明らかにした。カザフスタンへの外遊を延期したエルドアン大統領は「テロの災いと最後まで闘い続ける。(攻撃者は)重い代償を支払う」と強調した。
政府は11日を服喪の日に定め、半旗の掲揚を求めた。イスタンブールでは殉職した警察官の葬儀が執り行われ、エルドアン氏やユルドゥルム氏らが参列した。爆発現場には多数の市民が集まり犠牲者を悼んだが、支持政党の異なる者同士が小競り合いを起こす場面もみられた。
国内外の企業が集積し、国際的な観光都市でもあるイスタンブールが大規模なテロの舞台となるのは今年6月以来。過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員とみられる自爆テロ犯が国際空港を襲撃し、40人以上が犠牲になった。
トルコ経済は治安を懸念する外国人観光客の減少や7月のクーデター未遂事件後の消費低迷に直面する。そこに、トランプ次期米大統領の当選を受けた通貨リラの急速な下落が追い打ちを掛ける。12日発表の7~9月期の国内総生産(GDP)は2009年以来のマイナス成長に陥るとみられている。
イスタンブールでの新たなテロ発生は先行きを不安視する国民の消費意欲の低下や、国際会議や外国人観光客の一段の減少を招き、景気回復の足かせとなる懸念が浮上している。