朝早く仕事している人が増えている?

からすけ ただでさえいそがしい朝なのに、1、2時間も早く起きて準備するなんて大変だね。一体、なんのためにそんなことをするんだろう。
ダラダラしない→残業減

からすけ 国家公務員って財務省とか経済産業省とかいう、国の役所で働いている人たちだよね。
イチ子 そうね。すべての国の役所で原則として、働き出す時刻を早める朝型勤務が始まるの。
からすけ ふ~ん。なんで国家公務員なの?
イチ子 公務員から始めて、一般(いっぱん)の会社にも広げようと考えているわけ。朝型勤務を始めている会社もすでにあるわ。有名なのは伊藤忠(いとうちゅう)商事という、世界中で貿易をしている会社よ。
からすけ やっぱり仕事を早く始めているの?
イチ子 始まる時刻は同じだけど、夜8時以降の残業を原則禁止にして、代わりに朝5~9時に働いたら手当を多くあげるようにしたの。
法廷労働時間 労働基準法で「これ以上働かせてはいけません」と定めた働く時間。日本は1日8時間、1週間40時間と決まっている。
労働生産性 働く人1人当たりまたは労働時間当たりで、どれだけの価値を生むかを示す。ここでは国内総生産(GDP)でみている。
からすけ 手当?
イチ子 日本では、会社などで働く人の労働時間は1日8時間、週40時間と法律で決めているわ。法定労働時間(キーワード)というの。それ以上長く働かせるときは、会社が手当というお金をあげる必要があるの。そのお金は、夜10時以降の深夜が一番高くなる仕組みになっていて、昼間に働くより5割も多いのよ。
からすけ じゃ、夜中に働いた方がトクだね。
イチ子 伊藤忠では、朝も深夜と同じくらい手当を出すようにしたの。「夜遅くまでじゃなくて朝働こう」って。
からすけ ほかの会社でも朝型勤務をやってるの?
イチ子 リコーや富士ゼロックスといった会社がやっているわ。必ず働かなければならない時間帯をコアタイムと呼んでいて、その時間帯をはさめば、仕事の始まりと終わりの時刻を働く側が自由に決められるの。そのコアタイムを早めているわ。
全員同じ時間は難しい
からすけ なんで、夜働いちゃいけないの?
イチ子 からすけだって、お父さんが早く帰ってきた方がうれしいでしょ? 日本人は働く時間が長すぎるといわれていて、正社員でみると、年間2000時間を超(こ)えているのよ。
からすけ 2000時間かあ。ピンとこないな。
イチ子 1日の働き方を日本とアメリカ、フランスで比べた調査があるわ。家を出る時刻や会社に着く時刻はそんなに変わらないのに、仕事を終えて家に帰る時刻は日本がざっと2時間も遅いのよ。法律で決められた働く時間はフランスが週35時間、日本と米国は同じ40時間。なのに、この差はなんで?
からすけ 日本のお父さんの方が残業をしているからだね。でも、それと朝型勤務と何の関係があるの?
イチ子 夜だとダラダラしがちだけど、朝なら時間に限りがあるから効率良く働かざるを得ないでしょ。
からすけ 残業時間を減らせるってわけか。
イチ子 それが狙(ねら)いよ。働く人がどれくらい効率的に働いているかを示す国際比較(ひかく)のデータがあるの。労働生産性(キーワード)といって、日本は1時間働いて41.3ドルのお金を生み出すのに対し、米国は65.7ドルと1.6倍にもなるわ。日本は主要先進7カ国中、実は一番低いのよ。これをなんとかしましょう、というわけね。

からすけ 朝型ならうまくいくんだね?
イチ子 う~ん、必ずしもそうともいえないの。お菓子(かし)をつくるカルビーという会社は、社員全員が働かなければならないコアタイムの始まりを朝8時半に早めたの。でも、働く側の意識がなかなか変わらず、かえって残業時間が増えてしまったので、元の午前10時にもどしたそうよ。
からすけ 朝も夜も残業ということもあるんだね。
イチ子 全員一律というのも無理があったみたいなの。朝は、子どものお弁当を作ったり洗濯(せんたく)したりで忙しいお母さんもいるでしょ。おじいさんやおばあさんの介護(かいご)があって、どうしても朝早く家を出られない人もいるよね。
からすけ 働く時間を無理に同じにすると、働けない人が出てきてしまう?
イチ子 そうなの。人口が減っていく日本で働ける人を増やしていくには、働く時間を一人ひとりの事情で変えられるような制度が必要かもしれないわね。

奈良時代の役人も
朝型勤務が話題ですが、奈良(なら)時代に平城京で働く役人も早朝勤務でした。
日の出の約20分前に、太鼓(たいこ)の合図で平城京の正門、羅城(らじょう)門などが開きます。約1時間後には次の太鼓が鳴り、別の門が開き、みやびな貴族から下級の官人までおよそ1万人がこの間に出勤しました。
朝早いためか、朝食も支給されました。「副菜が乏(とぼ)しいのでもっと良いものを」と要望した記録が残っています。基本は日が暮れるまでに仕事を終えますが、一部泊(と)まり勤務もあったようです。
彼(かれ)らの時間を測っていたのは、「漏刻(ろうこく)」と呼ぶ水時計です。飛鳥の水落(みずおち)遺跡に漏刻の跡(あと)が残っています。律令を整えたばかりの古代日本で国家体制を築く第一歩は、時間で人々(ひとびと)の生活を律することでした。21世紀の今、どんな労働時間管理が望ましいのか。これからの検討課題ですね。
[日経プラスワン2015年4月11日付]