携帯の競争政策の失敗映す官房長官発言
菅義偉官房長官が講演で「携帯電話料金は4割程度下げる余地がある」と発言した。政府高官が民間企業の決める料金水準にあからさまに口出しするのは異例であり、賛否が分かれそうだ。ただ、日本の通信市場が大手3社による寡占化など問題が多いのは事実で、さらなる改革が欠かせない。
菅長官は携帯会社に対し「国民の財産である公共の電波を利用している。過度な利益を上げるべきではない」とも述べた。過度かどうかはともかく、NTTドコモやKDDIなど携帯3社の利益水準が高いのは間違いない。3社とも日本企業の営業利益の上位10社に名を連ねている。
消費者目線で見ても、家計消費に占める通信料の比率は徐々に上がり、昨年の携帯通話料は世帯当たり年間10万250円と初めて10万円を超えた。こうした負担感の重さや料金プランの複雑さに不満を覚える利用者は多いだろう。
だが、携帯通信料金は自由化されており、政府が強権発動的に変更できるものではない。競争を活発にすることで、値下げやサービスの多様化が自然に進むように誘導するのが政府の仕事である。
見せかけではない本当の競争を市場に持ち込むために、まず重要なのはプレーヤーの数を増やすことだ。米国ではトランプ政権の方針は今のところ不明だが、オバマ前政権は携帯通信3、4位のスプリントとTモバイルの統合を認めなかった。3社体制になれば選択肢が減り、消費者が不利益を被ると考えたからだ。
一方で日本政府は2012年のソフトバンクによるイー・アクセス買収を容認し、3社体制に移行し、今に至った。政府としての判断ミスを指摘する声も多い。
楽天が「第4のキャリア」として名乗りを上げ、来年秋にサービスを始める予定だ。通信行政を所管する総務省は公正取引委員会とも連携しつつ、大手3社が支配力を乱用して、新規参入組の楽天を市場から締め出すことのないよう目を光らせるべきだ。
3社から設備を借りてサービスする「MVNO」と呼ばれる事業者の育成も重要な課題だ。
大手3社も世間からの厳しい視線を自覚してほしい。次世代通信規格の「5G」を使い、パートナー企業とも連携しつつ自動運転などこれまでにない用途を切り開くことも、顧客満足度や社会からの信認を高めるひとつの道だ。
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