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「偉大な米国」にほど遠い入国制限

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自由や平等の旗の下に、様々な出自を持つ人々が結束する。これが米国の強さと魅力のはずだ。この理念を自ら破壊するのか。そんな不安がぬぐえない。テロ対策を名目に、トランプ米大統領が打ち出した難民や一部の国を対象とする入国制限措置のことだ。

拡散するイスラム過激派のテロへの対処は国際社会の共通課題だ。ただし、イスラム教徒や中東の人々を狙い撃ちにしたともとれるトランプ政権の対応は、中東の人々の怒りを呼び、テロを助長することになりかねない。

一方的措置は逆効果

トランプ氏が入国制限措置を定めた大統領令に署名した結果、全米の空港で入国できなかったり、中東などで米国行きの飛行機に乗れなかったりする人が相次いだ。制限措置に抗議するデモも各地に広がっている。

すべての難民の受け入れを120日間止める。イラクやイランなど、中東・アフリカの7カ国についてはすべての人の入国を認めない。イラクのように米国が国交を持つ国もある。その全国民を閉め出し、入国査証を持つ旅行者まで空港で足止めされたのは不当と言わざるをえない。

過激派組織「イスラム国」(IS)には、入国制限の対象になっていない国の出身者も多数、加わっている。イスラム教の過激思想は国境を越えて広がる。特定の国民の入国を拒んでも、テロの抑止には限界がある。

標的になった国々は反発している。反米感情の高まりはテロリストの予備軍を増やし、結果的にテロ組織を利するだけだ。米国が一方的に扉を閉じることは、テロや難民の問題の解決にはならない。

中東やアフリカの国々の安定を後押しし、そこの人々の生活を向上させる和平の努力や経済開発を進めることが重要だ。

米国内で、爆弾テロや銃乱射といった事件が相次いでいるのは事実だ。昨年6月のフロリダ州オーランドでの乱射事件では、史上最悪の50人が死亡した。9月にニューヨーク市内で起きた爆発事件では、約30人が負傷している。

前代未聞の入国制限にトランプ大統領を走らせるのは、米国内の治安が揺らいでいるという危機感だろう。

しかし、彼がやっていることはテロ対策上、まったく逆効果であるばかりでなく、米国の長期的な国益も致命的に傷つける。

米国が世界のリーダーとして振る舞ってこられたのは、強大な国力に加えて、自由や人権といった価値を重視し、守ろうとしてきたからだ。難民の受け入れは、その最たる証しのひとつである。

米国が世界中から受け入れる多様な才能は、変革と飛躍の土台になってきた。IT(情報技術)分野は代表例だ。今回の措置により制限の対象となる国籍を持つ社員が移動できなくなる恐れが生じるなど、支障が出始めている。アップルやグーグルなどの経営者が懸念を表明するのも当然だろう。

入国制限を続ければ、米国への世界の信頼は崩れ、トランプ大統領が目指す「偉大な米国」の復活どころではなくなる。宗教や民族の分断が広がり、世界がさらに危険になってしまう。

こうした事態を防ぐため、米国の同盟国の役割も大きく問われている。

日本も懸念を伝えよ

オランド・フランス大統領とドイツのメルケル首相はトランプ大統領との電話で、入国規制に懸念を伝えた。民主主義を信奉する同盟国として、苦言を呈するのは当然だ。

では、日本はどうか。トランプ大統領とは、安倍晋三首相も電話した。入国制限措置の大統領令に、トランプ氏が署名した後のタイミングである。

「就任直後から精力的に活動し、トランプ時代の幕開けを強烈に印象付けた」

「大統領のリーダーシップによって、米国がよりいっそう偉大な国になることを期待している」

日本側によると、安倍首相はこんな趣旨の発言をしたというが、入国制限措置に懸念を示したのかどうかは明らかではない。

安倍首相はかねて、自由の価値を共有する国々との協力を標榜してきた。ならば、人権に反するトランプ政権の言動にこそ、きちんとクギを刺すべきだ。

日本は難民の受け入れでも、甚だしく世界に遅れている。昨年1~9月、難民認定を申請した外国人は7926人にのぼったが、認定されたのはたったの6人にすぎない。このままでよいのかどうかについても真剣な議論が必要だ。

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