グリード(上・下) 真山仁著
強欲の帝国 懲らしめる
金融サスペンス、ハゲタカ・シリーズ最新作は、2008年世界金融恐慌という「史実」を背景に、頂点をむかえる。キーワードは3つのG。グローバリゼーション、グリード(強欲)、グッド(善)。
今回、企業買収のプロを招き寄せるのは、世界を制覇した金融帝国の中枢だ。巨大投資銀行とアメリカン・ドリームを体現するコングロマリット企業。その内部は、強欲によってボロボロに腐食していた……。
主人公ハゲタカは「強欲におぼれた愚かなアメリカにお灸(きゅう)をすえてやるために参上した」と、啖呵(たんか)をきる。
人間を支配するのはマネーだ。強欲こそ善。その信念に翳(かげ)りがさす。新自由主義経済の申し子がその理念の矛盾にキバをむくことになる。
今回のハゲタカは、単純なダーティ・ヒーローではない。悪の魅力をふりまくより、強欲の帝国を懲らしめる審判者だ。アメリカへの「侵略者」という汚名にも怯(ひる)まない。悪役を引き受けることで「善」を逆転させようとする。強欲VS強欲、パワーVSパワーの闘いの軍配はどちらに。
わずか数年前の「歴史」が何であったかの反省を迫る問題作である。
★★★★
(評論家 野崎六助)
[日本経済新聞夕刊2013年11月6日付]
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった